再生不良性貧血における体細胞変異とクローン性造血
Somatic Mutations and Clonal Hematopoiesis in Aplastic Anemia
T. Yoshizato and Others
後天性再生不良性貧血患者では,造血細胞が免疫系によって破壊され,汎血球減少をきたす.患者は免疫抑制療法に反応するが,患者の約 15%は,再生不良性貧血の診断後,通常数ヵ月~数年の経過で骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病を発症する.
再生不良性貧血患者 439 例から採取された血液検体 668 例を用いて,次世代シーケンサによる塩基配列決定とアレイ解析に基づく核型分析を行った.82 例では継時的に採取された検体についても併せて解析を行った.
骨髄系腫瘍で変異を生ずる候補遺伝子の体細胞変異が約 1/3 の患者で認められた.これらの変異は特定の遺伝子群に生じており,それらの初期の変異アレル頻度は小さい.クローン性造血は 47%の患者で検出され,体細胞変異によって確認される頻度がもっとも高かった.変異の保有率は年齢とともに上昇し,加齢によって生ずる変異が有する特徴が認められた.DNMT3A と ASXL1 の変異クローンのサイズは経時的に増大する傾向が, 一方,BCOR,BCORL1,PIGA の変異クローンのサイズは縮小または安定する傾向が認められた.PIGA,BCOR,BCORL1 の変異を有する症例は,免疫抑制療法に対して良好に反応し,また優れた全生存率と無増悪生存率を示す傾向が認められたが,DNMT3A と ASXL1 を含む一群の遺伝子を有する症例では,臨床転帰がより不良な傾向が認められた.しかし,これらのクローンの動態は非常に多様であり,個々の患者については,必ずしも治療反応性や長期的な生存率を予測するものではなかった.
再生不良性貧血患者において,クローン性造血が高頻度に認められた.一部の変異は臨床転帰と関連していた.変異が特定の遺伝子に大きく偏っていることは,骨髄不全環境下におけるダーウィン淘汰を示唆するものである.各患者における体細胞クローンの経時的な挙動は,多様性に富み予測不能であった.(科学研究費ほかから研究助成を受けた.)