November 17, 2016 Vol. 375 No. 20
メキシコシティにおける糖尿病と死因別死亡
Diabetes and Cause-Specific Mortality in Mexico City
J. Alegre-Díaz and Others
糖尿病が死亡率に及ぼす影響に関する大規模前向き研究のほとんどは,高所得国に焦点が絞られている.高所得国の患者は,妥当な医療へのアクセスが可能であり,良好な血糖コントロールを確立し維持するための治療を受けることができる.このような国では,糖尿病を有していても,全死因死亡率が 2 倍以上になることはない.肥満と糖尿病がよくみられるようになり,血糖コントロール不良と思われる中所得国では,大規模前向き研究が行われたことはほとんどない.
1998~2004 年に,メキシコのメキシコシティにおいて,35 歳以上の男性約 50,000 人と女性約 100,000 人を募集し,前向き研究に組み入れた.糖尿病診断歴の有無を記録し,血液検体を入手・保存し,12 年間の疾患別の死亡を 2014 年 1 月 1 日まで追跡した.急性の糖尿病クリーゼによる死亡のみを,死亡の根本的な原因を糖尿病と判定した.募集時に糖尿病を有していた被験者と有していなかった被験者とで,死亡率比を推定した.なお,糖尿病以外の慢性疾患を有していた被験者のデータは主要解析から除外した.
募集の時点で,肥満は多く,また,糖尿病有病率は年齢が高くなるにつれ急激に上昇した(35~39 歳では 3%,60 歳までに>20%).糖尿病を有していた被験者は,血糖コントロール不良であり(平均 [±SD] 糖化ヘモグロビン値 9.0±2.4%),血管保護薬の使用率は低かった(たとえば,募集時に降圧薬を投与されていた割合は 23%,脂質低下薬を投与されていた割合は 1%であった).糖尿病診断歴は,全死因死亡率比が,35~59 歳では 5.4(95%信頼区間 [CI] 5.0~6.0),60~74 歳では 3.1(95% CI 2.9~3.3),75~84 歳では 1.9(95% CI 1.8~2.1)と関連していた.35~74 歳では,糖尿病診断歴と関連した超過死亡は,全死亡の 1/3 を占めた.絶対超過死亡リスクがとくに大きかったものは,腎疾患(率比 20.1,95% CI 17.2~23.4),心疾患(率比 3.7,95% CI 3.2~4.2),感染症(率比 4.7,95% CI 4.0~5.5),急性の糖尿病クリーゼ(糖尿病診断歴のある被験者の全死亡の 8%),他の血管疾患(主に脳卒中)であった.糖尿病と,肝硬変,癌,慢性閉塞性肺疾患による死亡率との関連はほとんど認められなかった.
肥満率の高い中所得国であるメキシコで行われたこの研究では,糖尿病の頻度は高く,血糖コントロール不良であり,高所得国と比較して糖尿病がはるかに不良な予後と関連していることが明らかになった.糖尿病は,35~74 歳での全死亡の少なくとも 1/3 の主な原因であった.(ウェルカムトラストほかから研究助成を受けた.)