難治性不安定狭心症患者における血清トロポニン T 値に関連したアブシキシマブの利益
Benefit of Abciximab in Patients with Refractory Unstable Angina in Relation to Serum Troponin T Levels
C.W. HAMM AND OTHERS
血小板糖蛋白 IIb/IIIa の受容体抗体であるアブシキシマブ(abciximab)は,難治性の不安定狭心症の患者において,冠動脈形成術の術前および術中の心臓イベントの発生を減少させている.そこで,われわれは,血清トロポニン T 値によって,この薬剤による治療がもっとも有益であろうと考えられる患者を識別できるかどうかについての検討を行った.
難治性の不安定狭心症に対する c7E3 Fab 抗血小板療法(c7E3 Fab Antiplatelet Therapy in Unstable Refractory Angina:CAPTURE)試験に組み入れられた 1,265 例の患者のうち,アブシキシマブまたはプラセボへの無作為割付け時に採取された血清検体を入手しえた患者は 890 例であった.これらの検体を,トロポニン T 値とクレアチンキナーゼ MB(CK-MB)値を測定するために使用した.梗塞後狭心症の患者は除外した.
血清トロポニン T 値は,試験組入れ時に 275 例(30.9%)で上昇していた(>0.1 ng/mL).プラセボ投与を受けた患者では,死亡または非致死的心筋梗塞のリスクは,トロポニン T 値と関連していた.6 ヵ月累積イベント発生率は,トロポニン T 値が上昇していた患者では 23.9%であったのに対して,トロポニン T 値が上昇していなかった患者では 7.5%であった(p < 0.001).アブシキシマブ投与を受けた患者では,この 6 ヵ月イベント発生率は,トロポニン T 値が上昇していた患者では 9.5%,トロポニン T 値が上昇していなかった患者では 9.4%であった.トロポニン T 値が上昇していた患者では,アブシキシマブによる治療に関連した死亡または非致死的心筋梗塞の相対リスクは,プラセボと比較して 0.32(95%信頼区間,0.14~0.62; p = 0.002)であった.アブシキシマブ投与を受けた患者のほうがイベント発生率が低かったのは,心筋梗塞の発生率の低下によるものであった(オッズ比,0.23;95%信頼区間,0.12~0.49;p < 0.001).トロポニン T 値が上昇していなかった患者については,6 ヵ月の時点での死亡または心筋梗塞の相対リスクに関して,治療の利益は認められなかった(オッズ比,1.26;95%信頼区間,0.74~2.31;p = 0.47).
血清トロポニン T 値は,血栓形成の代用マーカーと考えられているが,これによって,冠動脈形成術の適応となる難治性の不安定狭心症の患者で,アブシキシマブによる抗血小板治療がとくに有益と考えられる患者の高リスクサブグループを識別することができる.