January 17, 2008 Vol. 358 No. 3
抗うつ薬の臨床試験の選択的出版と見かけ上の有効性に与えるその影響
Selective Publication of Antidepressant Trials and Its Influence on Apparent Efficacy
E.H. Turner and Others
エビデンスに基づく医療は,エビデンスの根拠が完全でバイアスがない場合に限り有用である.臨床試験,およびそれらの試験内の転帰の出版を選択的に行うことで,薬物の有効性に対する非現実的評価を導き,見かけ上のリスク便益比が変化する可能性がある.
患者 12,564 例を対象とした,12 種類の抗うつ薬の試験に対する米国食品医薬品局(FDA)のレビューを入手した.対応する論文を同定するため,系統的な文献調査を実施した.論文として報告された試験について,出版された転帰と FDA の転帰を比較した.また,出版された論文による効果の大きさと,FDA のデータ全体による効果の大きさについても比較した.
FDA に登録された試験 74 件中,31%(被験者数 3,449 例)は出版されていなかった.出版されたかどうか,また出版された場合その方法は,試験の転帰と関連していた.FDA により結果が陽性であるとみなされた計 37 件の試験は出版されていたが,1 件は出版されていなかった.FDA によって陰性あるいは疑問のある結果であるとみなされた試験は,3 件を除き,出版されていない(22 件)か,われわれの見解では陽性の転帰を伝えるような形で出版されていた(11 件).出版された文献に基づくと,実施された試験の 94%が陽性であるとみられた.これに対して,FDA の分析で陽性であることが示されたのは 51%であった.FDA と学術誌のデータセットについて個別にメタ解析を行ったところ,効果の大きさの増加は,個々の薬剤では 11~69%の範囲であり,全体では 32%であった.
認められたバイアスが,著者やスポンサーが原稿を投稿しなかったことによるのか,学術誌の編集者および査読者が出版しないと判断したことによるのか,あるいはその双方によるのかは断定できない.臨床試験結果の選択的報告は,研究者,試験参加者,医療専門家,および患者にとって有害な結果をもたらす可能性がある.