March 18, 2010 Vol. 362 No. 11
日本における国家規模の一般市民除細動
Nationwide Public-Access Defibrillation in Japan
T. Kitamura and Others
公共の場に自動体外式除細動器(AED)の設置が拡大することで,院外心停止患者の生存率が改善するかどうかは明らかではない.
人口ベースの前向き観察研究として,2005 年 1 月 1 日~2007 年 12 月 31 日に日本全域で救急隊による蘇生が試みられた院外心停止患者を対象に,国家規模の公共 AED の普及が院外心停止後の生存率に及ぼす影響を検討した.主要評価項目は,最小神経機能障害(神経機能障害なしまたは軽度)での 1 ヵ月生存率とした.多変量ロジスティック回帰分析を用いて,良好な神経学的転帰と関連する因子を検討した.
対象となった成人の院外心停止患者 312,319 例のうち,12,631 例が心室細動を伴う心原性心停止で,居合わせた人に目撃されていた.このうち 462 例(3.7%)で,一般市民により公共の AED を用いた電気ショックが行われていた.一般市民により電気ショックが行われる割合は,公共 AED の設置数の増加に伴い 1.2%から 6.2%に上昇した(傾向性 P<0.001).最小神経機能障害での 1 ヵ月生存率は,居合わせた人に目撃された心室細動を伴う心原性心停止患者では 14.4%であり,公共の AED による電気ショックを受けた患者では 31.6%であった.早期の除細動は,電気ショックを行う者(市民もしくは救急隊)にかかわらず心室細動を伴う心停止後の良好な神経学的転帰と関連していた(電気ショックまでの時間が 1 分遅れるごとの生存率に対する調整オッズ比 0.91,95%信頼区間 0.89~0.92,P<0.001).公共 AED の設置数が居住地域 1 km2 あたり 1 台未満から 4 台以上へ増加するのに伴い,電気ショックまでの時間は平均で 3.7 分から 2.2 分に短縮し,最小神経機能障害で生存する心停止患者数は年間 1,000 万人あたり 2.4 人から 8.9 人へ増加した.
日本における国家規模の公共 AED の普及により,一般市民による電気ショックがより迅速に行われるようになり,院外心停止後の最小神経機能障害での 1 ヵ月生存率が上昇した.