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(木)

第2回 The New England Journal of Medicine 論文著者に聞く NEJMへの投稿・掲載のリアル

コラボレーション

大塚

もう一つすごいのは、発表でも触れられていたコラボレーションです。椛島先生はコラボがとにかくお上手です。どうしてそんな先生とつながっているのか、どうしてそういう話題を見つけてくるのかと驚かされることが多く、天性のものなのか、訓練されたものなのか、アンテナの感度が非常に高い。先生からは「基礎の学会に行け」「ほかの分野に顔を出せ」ということはよく言われていて、実際に行ってみて新しいコラボレーションが始まった経験もあります。このことに関して先生が意識していることはありますか。

椛島

その領域で一番わかっている人の話を聞きながら研究を進めるのがいいと思っています。だから、大学院生のときも成宮先生のところにいながら、本庶佑先生、阪大の宮坂昌之先生や清野宏先生など、いろんな方のもとへ教えてもらいに行きました。そこでゴールへの近道を経験したというのは大きいです。

狭い領域の中にずっといると、だんだんその領域の常識の中でしか生きられなくなってしまう。自分が知らない研究や技術が今まさに進んでいる場を見ることで、自分の疑問がもしかしたら解決するかもしれない。そういう意味で、いろんな学会に顔を出していくことは大切です。でも、そのときに自分のクエスチョンがないとつながりません。ふだんの臨床から出てくる小さな疑問などが、ずっと頭の引き出しにあることが大切だと思います。

コラボレーションで重要なのは人と人との信頼関係です。やると言ったことはきちんと責任を持ってやるということの積み重ねが大切で、それができないと、逆に信頼を失ってしまう。基礎研究に携わる人の多くは、自分の研究を臨床に役立てたいという気持ちを強く持っています。その方たちと意思疎通することによって新しいものが生まれてくることがたくさんあるので、横のつながりは本当に大切です。日本は今、そういう点では遅れているような気がします。ついつい引きこもりがちな傾向にあるかもしれないというのは、意識しておいたほうがいいのではないかなと思います。

大塚

参加者からもたくさんの質問が来ているので、一つずつ取り上げていきます。NEJMによる論文のreviseはどのような感じでしたか。基礎系のジャーナルとは印象が違いますか?

椛島

僕の感覚では、臨床系のジャーナルの場合、reviseというのは基本的にその論文を通す意思がジャーナル側にあるということだと考えています。基礎の研究ではデザインを直すことや、何度もやり直すことが可能です。でも、臨床の論文のデザインはもう変えられないので、まずデザインづくりが重要であることを強調したいです。さて、臨床の論文のreviseでは基本的にreviewerのコメントに誠実に答えていくことになります。ですのでこのデータをもう少しこういうふうに見せてほしいとか、このデータは要らないとか、そういう変更が中心になります。だから、基礎系のジャーナルとは違って、臨床の論文のreviseというのは基本的に通してもらえると考えていいと思うんです。

大塚

カバーレターの書き方についての質問も来ています。僕はカバーレターで何度も先生に怒られた記憶があるのですが(苦笑)、カバーレターで何か工夫されている点はありますか。

椛島

カバーレターでは、エッセンスをコンパクトにまとめるべきです。論文の中身は厳密なロジックがないとだめですが、カバーレターは少し風呂敷を広げるくらいのつもりで書いたほうがいい。あくまで手紙のやりとりなので、「こんなにおもしろいことなんだよ!」「すごいのを見つけたんやで!」と力強くアピールする場だと思っています。

大塚

次は、「NEJMのようなトップジャーナルに出そうとしたとき、とりあえずだめもとでも出そうとしているのか、ある程度勝算があって出そうとしているのか」という質問です。先生のお考えはどうですか。

椛島

勝算があって論文を出すことはあまりないですね。少しでも望みがあるんだったら出したいという気持ちはありますが、じゃあNEJMに今まで何回も出したことがあるかというと、あまりないです。ジャーナルを読んでいると、このぐらいのクオリティがないとだめというのはさすがにわかるので、記念受験のようなことはしないかな。

大塚

次の質問です。「先生の現在の研究について教えてください」。先生が次に、または長期的に目指していることは何ですか?

椛島

僕は基本的に気が多くて、皮膚で起こることは何でも興味があるんです。ベースはずっと免疫ですが、今、関心があるのは、免疫細胞と免疫以外の細胞の相互作用ですね。神経とか線維芽細胞とか、皮膚の中でいろんな細胞がどうやって時空間的に織りなして恒常性を維持したり疾患にいたるのかを包括的に知りたい。そのツールとして、皮膚の内部を可視化する二光子励起顕微鏡のような技術にも注目しています。

昔は一つの細胞の機能を追いかけることに興味がありましたが、今は、免疫やバリアなど、皮膚というシステムがどんな役割を果たし、トータルとして、外的刺激に対してどうホメオスタシスが維持されるのかを知りたい。その中で新しい分子的な機序が見つかれば、また次の創薬につながっていくかなという期待もあります。

大塚

「先生の部下や後輩の指導はどのようにされていますでしょうか」。下の世代を育てることに対する先生の哲学や方法論はありますか。

椛島

これは難しいですね。大塚先生と一緒にいた十数年前には僕はまだ准教授というポストだったので、大学院生やポスドクとずっと一緒にいられましたが、今は組織が大きくなって、大学院生を直接教えることはなかなか難しくなってきた。教育においては、自分自身でおもしろいものを見つけて、自分で考えてもらいたいという思いがあります。早くに答えを求めず、答えがなくても耐えてほしい、その耐える力を身につけてほしい。昔は、僕自身の興味があることを若い人に実現してほしいと思っていたけど、今はどっちかというと、若い人が自分で考えてテーマを見つけて、それをサポートするという形。おじいちゃんになったような気分ですね(笑)。

大塚

質問はまだ来ていますが、そろそろ時間ですね。最後に一言お願いいたします。

椛島

繰り返して言いたいのは、臨床系のトップジャーナルに掲載されるためには、人とのつながりと、最初のデザインが大切です。その意味で誰にでもチャンスはあります。

ただ、日本の製薬会社の人は、どういうものをつくろうとしているのか、またつくっているのかをなかなかオープンにしてくれません。だから、彼らに信頼されるような、「この病気だったら僕のところに相談に来て」と言える自分の強みを持つことが大切なのかなと思います。あとは、「運、鈍、根」かな。

大塚

先生は気が多いとおっしゃいましたが、皮膚の免疫という主戦場はぶれていません。その追い続ける力、しぶとさは見習うべきところだなといつも思っています。ありがとうございました。