NEJM Catalyst Innovations in Care Delivery

購読者インタビュー

Interview1

伊藤 英樹先生

広島大学病院
医療安全管理部 教授

NEJM Groupが
医療提供の領域に
着目した新しい雑誌

ー 医療安全管理部の役割について教えてください。

医療安全管理部というのは、患者に医療を提供するにあたり、想定されていた結果を達成できなかったケースの原因分析や調査を行う部門です。それに加えて、診療の質を改善させる取り組みを推し進め、現場に介入していく病院長直轄部門です。医師や看護師、薬剤師など様々な職種から構成される横断的組織で、今は約10名のチーム体制です。

ー NEJM Catalyst Innovations in Care Delivery(NEJM Catalyst)を購読するきっかけについて教えてください。

私はもともと循環器内科医として20年以上循環器診療に携わり、医学論文も書いてきました。The New England Journal of Medicine(NEJM)は世界最高峰の臨床医学雑誌であり、医師であれば誰もが読んでいます。私も論文タイトルだけは毎週必ず目を通すことにしていますし、特にNEJM.orgに掲載される『Quick Takes』という数分程度の動画コンテンツはとても有用で、何度も繰り返し閲覧しています。

2019年の年末だったと思いますが、NEJM.orgへアクセスするとNEJM Catalyst創刊の案内を目にしました。掲載予定の内容を見てみると医療安全に関連するものが多かった。ちょうど現在の医療安全管理部に異動した時期でもあり、NEJM Groupが医学研究だけでなく医療提供の領域にも注目しているということに、強く興味をひかれました。この領域の今後の重要性を改めて感じ、購読を始めました。

ー NEJM Catalystをどのように読まれていますか。

NEJMと同様、まずは記事のタイトルに目を通します。臨床医にはちょっととっつきにくいような、社会学や公衆衛生学に近い内容も多いですが、Case Studyというコンテンツなどは臨床医にも読みやすい内容だと思います。ざっと全体を読む中でキーワードを拾って、なじみのない言葉があれば調べます。全ての記事の全文を読むのはなかなか難しいので、最低限Summaryを読んで内容を把握するようにもしています。私は論文のTableやFigureをまず先に見る習慣があるのですが、NEJMもNEJM Catalystも、他誌と比べて図表が本当に綺麗だと思いますね。また、誰がどのような研究を行っているかを把握するため、論文著者の名前にも注目しています。

他国の先端的な事例を
知る

ー NEJM Catalystのどのような点に注目されていますか。

NEJM Catalystは、患者に医療を提供する部分に着目した雑誌です。NEJMなどの医学雑誌では、医学研究論文が掲載され、疾患の治療法などがエビデンスとして確立されていきます。そのエビデンスをもとに医療提供を行うわけですが、適切かつ効果的な医療を実現するためには、また別の視点が必要です。そこのエッセンスが含まれているのがNEJM Catalystだと思います。

日々の臨床において、Work-As-Imagined(頭の中で考える仕事のやり方)とWork-As-Done(実際の仕事のやり方)のあいだにはどうしてもギャップがあり、それを近づけることが医療安全の役目でもあります。NEJM Catalystでは、実際に我々が日々実践していることを超えた、かなり進んだ先端的な他国の事例も知ることができます。Work-As-Imaginedの高みを望むと言えるかもしれません。医療の質を高めるにはどのようなことができるのか、これまでにない新しい取り組みを考えていく上で参考にできないかという視点で読んでいます。

ー 海外の事例における制度や政策の違いについてはどのように考えていますか。

例えば、心筋梗塞の治療には国ごとの違いはほとんどありません。でも、医療提供の仕方や体制には国ごとに多様性があります。他国と日本では様々な前提も異なりますが、それを踏まえた上でも、他国においてどのような医療提供がされているか、事例として様々なシステムや仕組みを知ることには意味があると思います。最近では、新型コロナウイルスの院内感染を防ぐため、ある国の病院で人の流れの動線を改善した事例が印象に残っています。国ごとの多様性があるというのは、NEJMで扱われるような医学研究とは異なる点ではありますが、それがNEJM Catalystの面白いところだと思います。

医学研究と医療提供の
仕組みは、
医療の質を向上させる
ための2つの車輪

ー 病院の医療安全管理という観点からはどのような点に着目されていますか。

医療システムや体制を変えることで患者の予後やアウトカムにどのような影響が出たか、医療の質の向上を達成できたか、そういう観点で行われる研究は少ないですし、特に日本では全くされていないと言っても良いでしょう。残念ながら、日本の医療安全管理では、医療事故や良くないことが起きた時に対処するという考え方が主流です。

日本では、医療システム全体を念頭において働く医療従事者というのは、やはり多くはないと思います。ただ、少なくとも病院経営や病院管理に携わる医師はその視点を持つ必要がある。NEJM Catalystのように学問としてこの領域を切り開いていくことは、非常に重要です。BMJの姉妹紙にBMJ Quality & Safetyという雑誌もありますが、NEJM Catalystとは少し毛並みが違って、より現場のクオリティマネジメントに近いと思います。NEJM Catalystのような雑誌は他にはありません。

実は、NEJM Catalystにはいつか医療安全の領域の論文を投稿したいとも考えていて、それが購読をしている理由でもあります。ヘルスケアサイエンスの他の領域と同じように、医療安全の領域でも、成果を研究論文として発表するという文化を作っていきたいと考えています。

ー NEJM Catalystの購読を考えている方に向けた推薦の言葉をお願いします。

NEJM Groupがこの領域で新たな雑誌を創刊した、そのこと自体に大きな意義を感じています。医療の質の向上のためには、これまでの医学雑誌で扱われてきた医学研究だけではなく、社会システムや医療政策などの医療提供体制についても考えないといけないということですね。医学研究と医療提供の仕組みは、医療の質を向上させるための2つの車輪であり、NEJMとNEJM Catalystもそのように補完し合う関係だと思います。この雑誌を、大学図書館や病院など、施設全体として購読することは有益だと思います。臨床医にとっても、医療システム全体を見るための視点が必要であると思います。若い医師もどんどん読んだ方が良いでしょう。