NEJM Catalyst Innovations in Care Delivery

購読者インタビュー

Interview2

田村 幸大先生

大隅鹿屋病院
副院長 内科部長

今の日本にはない切り口の雑誌

ー 現在のお仕事についてお教えください。

当院は鹿児島県の東半分を占める大隅半島の中心地である鹿屋市にあります。大隅半島は東京都と同じくらいの面積で、非常に広いエリアから救急搬送を受け入れるなど、地域の急性期医療を支える病院となっています。私自身は内科系全般の急性期の診療を担当していて、内科の責任者という立場です。副院長としては、医療安全の領域の担当と、新型コロナウイルス感染症対応における責任者的な立場を担っています。

ー 医療安全の担当の立場から、NEJM Catalyst Innovations in Care Delivery(NEJM Catalyst)の購読を決めたきっかけをお教えください。

NEJM Catalystの内容は、医療安全や新型コロナ対策に活かせる部分が多々あると思っています。医療安全は医師だけ、医局だけでできることが非常に少なく、病院全体として全ての職種の人たちで意識を高めていく必要があります。これは医療安全管理部の仕事だとか、新型コロナ対策は感染管理の仕事だとか、専門領域の仕事と思ってしまうと上手くまわりません。病院全体の意識をいかに高めるか、組織全体をいかに動かしていくのかを考えたときに、日本の既存の医療関係の雑誌で勉強になるものはないわけではないのですが、限られてしまうと思います。その中でNEJM Catalystというのは、既存の雑誌とは毛色が異なり、読んでみたらおもしろそうだなという好奇心もあり購読を決めました。

「新型コロナ対策」
「病院経営」
「AI活用・DX」が三つの軸

ー NEJM Catalystには、医療システム全体や医療政策に関わる観点の記事が多く掲載されています。病院を運営する立場からは、どういった記事に注目されていますか。

購読を始めたのが、ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し始めた時期でしたので、気にして見ていたのは新型コロナ対策の記事です。欧米が悲惨な状況にあって日本はそこまで酷い状況ではないときに、欧米の病院はどんな風に現状を捉えているのか。最近読んだものですと、CWO(Chief Wellness Officer)、つまりヘルスケア領域のチーフを置いた方がいいという記事もありました(The Evolving Role of the Chief Wellness Officer in the Management of Crises by Health Care Systems: Lessons from the Covid-19 Pandemic)。コロナ禍で災害と似たような状態に陥っているなか、彼らは職員のメンタルヘルスをどういう風に管理しているのだろうか。地震や津波といった災害であれば、災害の瞬間が一番ひどく、その後は応援が入ってきて落ち着いてくる、という経過を辿ります。一方で新型コロナは終わりが見えない、我々が経験したことのない状況です。そうした状況にいかに病院は立ち向かっていくのか、病院の運営を継続しながらいかに耐えていくのか。そういった観点で、先に流行した国の病院のケースに注目していました。

オンラインの経営大学院で勉強しているというのも、NEJM Catalystに興味をもった理由の一つです。病院もボランティアではないので、当然ながら継続して適正な利益を出していかないといけません。5年後も10年後も地域の人たちに医療を提供できるようなシステム作りが非常に大事になるわけです。そのためにどういったことを工夫してやっているのか、欧米の病院はどうしているのか、米国とは医療システムが違うのでそっくりそのまま使えるわけではないですが、こういった点にも着目しています。

ー 医療の変革という観点からはいかがでしょうか。

医療現場へのAIの活用や遠隔診療、医療以外の業界ですとデジタルトランスフォーメーション(DX)が近頃言われていますが、そういった記事にも注目しています。米国では医療へのアクセスが距離的・金銭的に簡単ではないところがあって、DXに関しては日本より米国のほうがはるかに進んでいるからです。

海外の先進的な事例から学ぶ

ー NEJM Catalystが取り上げるのは海外の事例で、日本とは諸制度が異なりますが、日本の医療従事者はどのような観点で読むといいでしょうか。

制度が違うのはその通りです。例えば日本の場合、医療は公定価格で国が決めているので、医療機関の政策判断や経営判断が大きな影響を受けるのは避けて通れないことです。ですが、医療を提供するという根本の部分は変わりません。医療制度が違う国の話だから参考にならないと思って読むのか、こういうことをやっているんだ、こういう取り組みや工夫があるんだ、という捉え方をするかでだいぶ見え方は違ってきます。例えば、何か問題があってイノベーションが必要なとき、意見の「発散」の段階と「収束」の段階がありますが、「発散」段階というのは、自分たちの置かれている制度や法律にしばられずにたくさん意見を出した方がいい。NEJM Catalystの各国の事例は、意見の「発散」の段階で役に立つのではないかと思います。「収束」の段階で、現実の日本の医療制度では実現不可能なものはもちろん出てきますが、「発想」段階では海外の事例だから役に立たないということは決してありません。例えばDXに関して日本は遅れていますが、新型コロナが収束してもDXをやらなくていいことにはならないわけで、必ず進んでいきます。米国の事例は発想を広げるうえで大いに役立つでしょう。米国が辿ってきた道を知っていれば、日本でも同様の取り組みを始めたとき必ず役に立つ、私はそういったつもりで読んでいます。

ー NEJM Catalystは従来の医学雑誌と毛色がかなり異なるので、購読を躊躇われる方もいると思います。New England Journal of Medicine本誌(NEJM)とNEJM Catalystの違いをどのように捉えていますか。

NEJMは純粋に医学の勉強のために読んでいます。一方NEJM Catalystに関しては、病院で一プレイヤーとして動くだけであれば読まなくてもいいところもあります。ただ、自分の診療科の責任者や副院長という立場になり、マネジメントを学ぼうと思ったら非常に大事な雑誌になってくるかと思います。医師が管理職になる段階でリーダーシップ研修を実施する病院もありますが、現状ではごく一部に限られています。多くの病院は年功序列で、ある程度の年数を経るごとに、医長になり部長になり副院長になりと、肩書がついてくるという制度になっていて、マネジメントが自分の経験に基づいたものになりがちです。NEJM Catalystは、マネジメントを求められるようになったときに手に取ってみたくなる雑誌という気がします。もちろん早く読んでもマイナスになりませんが、医師として経験が浅い時期というのは、純粋な医学の勉強をしたい動機づけの方がより強いとも思います。

ー 最後に、NEJM Catalystの購読を考えている方に向けた推薦の言葉をお願いします。

マネジメント、医療政策、DXなど非常に多岐にわたるトピックを網羅していて質も高い雑誌です。日本の医療のDXは遅れていますが今後はどんどん進展していくでしょうし、いま米国で起こっていることのほとんどは、遅かれ早かれ日本で同じように起こってくるはずです。つまりNEJM Catalystを読むことで、日本の医療の将来を一足先に知っておけるということになります。特に病院のマネジメント層には、明日とか一か月後に役立つことではなく、もっと長期的なスパンで考えるべきことが多々あります。病院が進むべき方向性について学べる媒体は、いまのところNEJM Catalystにとってかわるものは私が知る範囲では思い当たりません。病院のマネジメント層、私がそうでしたが経営大学院などで勉強していて、なにかヒントになる情報が手に入る方法がないかな、と考えている方がいたら、ぜひ読んでみてください。