December 7, 2000 Vol. 343 No. 23
拡張型心筋症の一因としてのサルコメア蛋白遺伝子の突然変異
Mutations in Sarcomere Protein Genes as a Cause of Dilated Cardiomyopathy
M. KAMISAGO AND OTHERS
特発性拡張型心筋症は,最終的には心筋収縮機能の低下に至る一次性心筋疾患であり,その分子的基礎はほとんど解明されていない.家族性拡張型心筋症の症例には,心臓の細胞骨格蛋白の遺伝子突然変異に起因する患者がいる;この知見は,拡張型心筋症の基礎にあるメカニズムの一つとして,収縮力の伝達における欠陥が関与していることを意味している.われわれは,この欠陥が心不全の重要な原因となっていることを明らかにするために,拡張型心筋症の他の遺伝的原因についての検討を行った.
臨床評価は,家族性拡張型心筋症の 21 例の親族において行った.ゲノム全体の連鎖解析の試験の進歩により,β-ミオシン重鎖(H 鎖),トロポニン T,トロポニン I,およびα-トロポミオシン(α-TM)をコードしている遺伝子において,家族性拡張型心筋症の原因となっている突然変異の探索を行った.
拡張型心筋症に関連している突然変異の遺伝子座が,14 番染色体の q11.2–13 の位置において同定された(最大ロッド値,5.11;θ=0).この位置は,心臓のβ-ミオシン重鎖の遺伝子がコードされている場所である.サルコメア蛋白のβ-ミオシン重鎖の遺伝子と他の遺伝子の解析から,4 例の親族において,拡張型心筋症の原因となっている優性突然変異が同定された.つまり,心臓のβ-ミオシン重鎖のミスセンス突然変異(Ser532Pro および Phe764Leu)と心臓のトロポニン T の欠失(△Lys210)が,早発性の心室拡張症を発症させて(診断時の平均年齢,24 歳),心臓の収縮機能を低下させ,しばしば心不全に至らせるという結果になっていた.拡張型心筋症が発症した親族には,心肥大の先行も(平均の最大左室壁厚,8.5 mm),心肥大の特徴を示すような組織病理学的所見も認められなかった.
サルコメア蛋白遺伝子の突然変異は,家族性拡張型心筋症の約 10%の症例の原因となっており,とくに早発性心室拡張症と心機能不全の家族において,この突然変異の保因率が高い.同じサルコメア蛋白の別の遺伝子突然変異が,拡張型と肥大型心筋症を発症させているということから,筋力学に対する変異型サルコメア蛋白の影響が,心臓をリモデルする二つの異なったイベント流れの引き金となっているに違いない.