August 17, 2000 Vol. 343 No. 7
アルツハイマー病のリスクを有する人々の脳の活性化のパターン
Patterns of Brain Activation in People at Risk for Alzheimer's Disease
S.Y. BOOKHEIMER AND OTHERS
アポリポ蛋白 E 遺伝子(APOE)の ε4 対立遺伝子は,老年期痴呆のもっとも一般的な原因となっているアルツハイマー病の主要な既知の遺伝的危険因子である.記憶時のタスクに対する脳の反応とアルツハイマー病の遺伝的なリスクとの関連を調べるために,認知機能には異常が認められなかった高齢者を対象として,APOE の遺伝子型を決定するとともに脳の磁気共鳴画像(MRI)による機能検査を行った.
神経学的には正常であった 30 例の被験者(年齢,47~82 歳)について検討したが,16 例は APOE ε4 対立遺伝子の保因者で,残りの 14 例は APOE ε3 対立遺伝子のホモ接合であった.この 2 群の平均年齢および教育水準は同程度であった.被験者が無関係な単語の組み合わせを記憶し想起したときと,このあいだに被験者が休憩したときに,MRI による機能検査を行い脳の活性化のパターンを撮影した.この記憶については,2 年後に 14 例の被験者で再評価した.
アルツハイマー病によって侵される左側の海馬,頭頂,前頭葉前部を含む領域では,記憶―活性化のタスク時における脳の活性化の程度と範囲のどちらも,APOE ε4 対立遺伝子の保因者が APOE ε3 対立遺伝子の保因者よりも大きかった.想起時には,APOE ε4 対立遺伝子の保因者は,APOE ε3 対立遺伝子の保因者よりも,海馬領域のシグナル強度の平均増加が大きく(1.03% 対 0.62%,p<0.001),脳全体の活性化領域数の平均(±SD)が多かった(15.9±6.2 対 9.4±5.5,p=0.005).2 年後の経時評価では,ベースラインの脳の活性化の程度が記憶の再生減退の程度に相関していることが示された.
記憶時のタスクにおける脳の活性化のパターンは,アルツハイマー病の遺伝的リスクによって異なるので,このパターンによってその後の記憶の再生減退を予測できるかもしれない.