重症血友病 A の患者における第 VIII 凝固因子をコードしている遺伝子のウイルスを用いない遺伝子導入
Nonviral Transfer of the Gene Encoding Coagulation Factor VIII in Patients with Severe Hemophilia A
D.A. ROTH, N.E. TAWA, JR., J.M. O'BRIEN, D.A. TRECO, AND R.F SELDEN
重症血友病 A の患者において,ウイルスを用いない体細胞遺伝子治療法の安全性について検討した.
重症血友病 A の 6 例の患者を対象に,非盲検法による第 I 相試験を実施した.各患者から皮膚生検によって採取した皮膚線維芽細胞を培養して増殖させ,第 VIII 因子をコードしている遺伝子配列を組み込ませたプラスミドを用いて遺伝子導入した.第 VIII 因子を産生する細胞を選別してクローニングし,in vitro で増殖させた.次に,このクローニングした細胞を回収し,腹腔鏡を用いて患者の大網に注入した.遺伝子を変化させた細胞を移植してから 12 ヵ月間,患者を追跡した.中間解析を 1 回実施した.
第 VIII 因子産生線維芽細胞の投与あるいは移植手技に関連した重篤な有害事象は認められなかった.長期間にわたって存続するような合併症の発現も認められず,第 VIII 因子の阻害物質も検出されなかった.血漿中の第 VIII 因子活性レベルは,6 例の患者のうちの 4 例において,移植手技の実施前のレベルを上回った.第 VIII 因子活性の上昇は,出血の減少や外因性第 VIII 因子の使用の減量,あるいはその両方と相関していた.第 VIII 因子活性レベルがもっとも高かった患者では,このような臨床変化が約 10 ヵ月間持続した.
遺伝子を変化させて第 VIII 因子を産生するようになった線維芽細胞の移植は,安全かつ忍容性に優れている.この方式の遺伝子治療は,重症血友病 A の患者において実用可能である.