December 6, 2001 Vol. 345 No. 23
慢性心不全におけるアンジオテンシン受容体拮抗薬バルサルタンの無作為試験
A Randomized Trail of the Angiotensin-Receptor Blocker Valsartan in Chronic Heart Failure
J.N. COHN AND G. TOGNONI
アンジオテンシン II の作用は,今日推奨されている薬剤による治療にもかかわらず心不全が進行する一因になっている可能性がある.そこで,心不全の標準療法に,アンジオテンシン受容体拮抗薬のバルサルタンを追加することの長期効果について評価した.
ニューヨーク心臓協会(NYHA)の分類で II 度,III 度,または IV 度の心不全の患者,合計 5,010 例を,バルサルタン 160 mg またはプラセボの 1 日 2 回連日投与に無作為に割付けた.主要転帰は,死亡,および死亡と病的状態の複合エンドポイントとした.この病的状態とは,蘇生法を実施した心停止の発生,心不全による入院,または最低 4 時間の静注による強心薬または血管拡張薬療法の処方と定義した.
2 群の全死亡率は同程度であった.しかしながら,複合エンドポイントの発生率は,プラセボ群よりもバルサルタン群で 13.2%低く(相対危険度,0.87;97.5%信頼区間,0.77~0.97;p=0.009),これは主に,心不全によって入院した患者数が減少したことによるものであった:プラセボ群では 455 例(18.2%),バルサルタン群では 346 例(13.8%)(p<0.001).また,バルサルタンによる治療は,プラセボと比較して,NYHA 分類,駆出率,心不全の徴候および症状,および QOL を有意に改善させる結果となった(p<0.01).基礎に投与されていたアンジオテンシン(ACE)阻害薬または β 遮断薬によって定義された部分集団の複合エンドポイントおよび死亡の事後解析では,バルサルタンは,これらの薬効の薬剤をまったく投与されていないか,あるいはどちらか一方の薬効群の薬剤を投与されていた患者には好ましい作用を有していたが,両方の薬効の薬剤を投与されていた患者には有害な作用をもたらした.
バルサルタンは,すでに処方されている治療法に追加投与されると,心不全の患者の死亡と病的状態から成る複合エンドポイントの発生を有意に減少させるとともに,臨床徴候および症状を有意に改善させる.しかしながら,バルサルタン,ACE 阻害薬,および β 遮断薬の投与を受けている部分集団において,死亡および病的状態に関する有害作用が事後観察されたことから,この特定の併用投与の潜在的な安全性についての懸念がある.