January 17, 2002 Vol. 346 No. 3
多発性硬化症の慢性病変におけるミエリン形成前オリゴデンドロサイト
Premyelinating Oligodendrocytes in Chronic Lesions of Multiple Sclerosis
A. CHANG, W.W. TOURTELLOTTE, R. RUDICK, AND B.D. TRAPP
多発性硬化症は,ミエリン,オリゴデンドロサイト,軸索を破壊する中枢神経系の炎症性疾患である.多発性硬化症のほとんどの病変においてミエリン再形成が認められないことから,ミエリン再形成を増強することは治療戦略となる可能性があり,これはオリゴデンドロサイト産生細胞を病変部位に移植することによって達成できるかもしれない.われわれは,多発性硬化症患者の慢性病変におけるオリゴデンドロサイトの頻度分布と配置を検討し,これらの要因がミエリン再形成を制限するかどうか決定した.
多発性硬化症患者 10 例の剖検で得た 48 慢性病変について,オリゴデンドロサイトとオリゴデンドロサイト前駆細胞を免疫細胞化学的に検討した.共焦点レーザー顕微鏡を用いて,軸索とミエリン形成前オリゴデンドロサイトの突起との 3 次元的関係を検討した.
多発性硬化症の 48 慢性病変中 34 病変では,脱髄化軸索に結合しているがそれらをミエリン化できていない伸長した突起を多数有するオリゴデンドロサイトが含まれていた.これらの軸索はジストロフィー性で多数の腫脹がみられた.ミエリン形成前オリゴデンドロサイトの細胞密度(25 個 / mm2)が,齧歯類の発生中の脳における細胞密度(23 個 / mm2)とほぼ同じである領域も認められた.長期間(20 年以上)の罹患患者では,ミエリン形成前オリゴデンドロサイトを含む病変はほとんどみられなかった(p<0.001).
ミエリン形成前オリゴデンドロサイトが多発性硬化症の慢性病変に存在することから,オリゴデンドロサイト前駆細胞が存在しないため,あるいはそれらの細胞がオリゴデンドロサイトを産生できないため,ミエリン再形成が制限されているのではない.今回の知見は,多発性硬化症の慢性病変において,軸索が再ミエリン化されにくいことを示している.ミエリン形成前オリゴデンドロサイトと軸索の細胞間相互作用ならびに多発性硬化症病変の微小環境を理解することは,ミエリン再形成を増強する効果的戦略につながると考えられる.