April 28, 2005 Vol. 352 No. 17
骨髄増殖性疾患における JAK2 の機能獲得型変異
A Gain-of-Function Mutation of JAK2 in Myeloproliferative Disorders
R. Kralovics and Others
真性赤血球増加症,本態性血小板血症,特発性骨髄線維症は,1 つの多能性前駆細胞に起因するクローン性の骨髄増殖性疾患である.骨髄増殖性疾患では 9 番染色体短腕のヘテロ接合性の消失(LOH)がみられることから(9pLOH),これらの疾患では,9p に造血細胞のクローン性増殖を引き起す変異が存在することが示唆される.
骨髄増殖性疾患患者 244 例(真性赤血球増加症 128 例,本態性血小板血症 93 例,特発性骨髄線維症 23 例)を対象に,9pLOH 領域のマイクロサテライトマッピングと DNA シーケンスを実施した.
マイクロサテライトマッピングにより,Janus kinase 2(JAK2)遺伝子を含む 9pLOH 領域が 1 ヵ所同定された.9pLOH のある患者では,JAK2 にホモ接合性の G→T トランスバージョン変異があり,これにより JAK2 の 617 番塩基のフェニルアラニンがバリンに置換されていた(V617F).9pLOH のある患者 51 例全例に V617F 変異がみられた.9pLOH のない 193 例のうち,66 例は V617F がヘテロ接合性であり,127 例には変異がなかった.V617F の頻度は,真性赤血球増加症患者で 65%(128 例中 83 例),特発性骨髄線維症患者で 57%(23 例中 13 例),本態性血小板血症患者で 23%(93 例中 21 例)であった.V617F は,造血細胞に存在する体細胞変異である.おそらく有糸分裂組換えが原因で,9pLOH が生じ,V617F に関してヘテロ接合性からホモ接合性への移行が起ると考えられる.遺伝学的証拠と in vitro の機能解析から,V617F は造血前駆細胞に増殖・生存上の優位性を与えることが示唆される.V617F 変異のある患者は,野生型の JAK2 を有する患者と比較して,有意に疾患の罹患期間が長く,合併症(線維症,出血,血栓症)の発生率が高く,細胞減少療法を受ける割合が高かった.
骨髄増殖性疾患患者では,JAK2 に,高い割合で優性の機能獲得型変異がみられる.