リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)のスクリーニング
Screening for the Lynch Syndrome(Hereditary Nonpolyposis Colorectal Cancer)
H. Hampel and Others
ミスマッチ修復遺伝子 MLH1,MSH2,MSH6,PMS2 の生殖細胞系変異は,癌に対する感受性を増大させ,リンチ(Lynch)症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)を引き起す.大腸癌患者におけるこのような変異の頻度を評価し,リンチ症候群患者を同定するための分子スクリーニング法を検討した.
オハイオ州の州都コロンバスの主要な病院で新たに大腸腺癌と診断された患者を対象とした.主なスクリーニング法は,マイクロサテライト不安定性に関する腫瘍の遺伝子型判定とした.マイクロサテライト不安定性に関してスクリーニング結果が陽性であった患者において,ミスマッチ修復蛋白の免疫組織化学染色,ゲノム配列決定,遺伝子欠失解析を用いて,MLH1,MSH2,MSH6,PMS2 遺伝子の生殖細胞系変異を探索した.変異の保因者の家族にカウンセリングを行い,リスクが判明した場合には変異検査の受診を勧めた.
研究に組み入れた患者 1,066 例中,208 例(19.5%)にマイクロサテライト不安定性がみられ,うち 23 例でリンチ症候群の原因となる変異が認められた(2.2%).リンチ症候群の発端者 23 例のうち,10 例は 50 歳以上で,5 例は,遺伝性非ポリポーシス大腸癌の診断に関するアムステルダム基準やベセスダガイドライン(年齢および家族歴を用いたリンチ症候群の高リスク患者の同定を含む)に合致していなかった.マイクロサテライト不安定性に関する遺伝子型決定単独や,免疫組織化学分析単独では,それぞれ 2 例の発端者を同定することができなかった.発端者 21 例の家族で,リスクのある 117 人が検査を受け,うち 52 人にリンチ症候群の原因となる変異がみられ,65 例にはみられなかった.
大腸腺癌患者において,リンチ症候群の分子スクリーニングをルーチンで行うことで,それ以外の方法では検出されなかったと考えられる変異が,患者とその家族で同定された.これらのデータから,ミスマッチ修復蛋白の免疫組織化学分析によるスクリーニングの有効性は,より複雑な方法であるマイクロサテライト不安定性に関する遺伝子型決定の有効性と,同程度であることが示唆される.