April 27, 2006 Vol. 354 No. 17
甲状腺腫,ヘリコバクターピロリ感染,および慢性胃炎におけるサイロキシン
Thyroxine in Goiter, Helicobacter pylori Infection, and Chronic Gastritis
M. Centanni and Others
胃の酸性環境を変化させる薬物の投与を受けた患者で,サイロキシンの吸収不良が認められている.われわれは,甲状腺機能正常性の多結節性甲状腺腫で胃酸分泌の低下した患者において,サイロキシンの必要性が高くなっているかどうかを検討した.
多結節性甲状腺腫患者 248 例を対象に,甲状腺刺激ホルモンの低値(0.05~0.20 mU/L)を得るために必要なサイロキシン用量を評価した.これら 248 例のうち,53 例にはヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)関連胃炎,60 例には胃体部の萎縮性胃炎(31 例に H. pylori 感染の所見あり,29 例には所見なし)も認められた.対照群は,多結節性甲状腺腫で胃障害のない患者 135 例とした.さらに,血清甲状腺刺激ホルモン濃度の変化を,サイロキシン投与を受けていた患者 11 例の H. pylori 感染の前後と,サイロキシン投与を受けており胃食道逆流と診断された患者 10 例のオメプラゾール投与前および投与中に測定し,前向きに検討した.
サイロキシンの 1 日必要量は,H. pylori 関連胃炎,萎縮性胃炎,または両方の病態を有する患者において,対照群よりも高かった(22~34%).前向き研究では,サイロキシン投与患者 11 例で,H. pylori 感染により血清甲状腺刺激ホルモン濃度が上昇し(P=0.002),この作用は H. pylori を除菌するとほぼ消滅した.同様に,オメプラゾール投与は,サイロキシン投与患者 10 例全例で血清甲状腺刺激ホルモン濃度上昇と関連しており,この作用はサイロキシン用量を 37%増加させることで消滅した.
胃酸分泌の低下している患者では,より高用量のサイロキシンが必要である.このことから,経口サイロキシンの効率的な吸収には正常な胃酸分泌が必要であることが示唆される.