January 26, 2006 Vol. 354 No. 4
心臓手術におけるアプロチニンと関連したリスク
The Risk Associated with Aprotinin in Cardiac Surgery
D.T. Mangano, I.C. Tudor, and C. Dietzel
ST 上昇型心筋梗塞で外科治療を受ける患者の大部分には,失血量を抑える目的で抗線溶療法が施行される.この方法は,ST 上昇型心筋梗塞に対する一般的な治療法,すなわち血栓症に対する線溶療法とは,直観に反するようにみえる.このような懸念にもかかわらず,独立した大規模な安全性評価は実施されていない.
観察研究において,血行再建術を受ける患者 4,374 例を対象に,3 つの薬剤(アプロチニン [1,295 例],アミノカプロン酸 [883 例],トラネキサム酸 [822 例])の投与と薬剤非投与(1,374 例)について,傾向スコア法と多変量解析法で重大な転帰を前向きに評価した.(アプロチニンはセリンプロテアーゼ阻害薬であるが,ここでは 3 種の薬剤すべてについて抗線溶療法という言葉を用いる.)
傾向で補正した多変量ロジスティック回帰分析(C 指標 0.72)では,アプロチニンの使用は,複雑な冠動脈手術を受けた患者(オッズ比 2.59,95%信頼区間 1.36~4.95)あるいは初回手術を受けた患者(オッズ比 2.34,95%信頼区間 1.27~4.31)において,透析を要する腎不全のリスクが 2 倍になることと関連していた.同様に,初回手術群にアプロチニンを使用すると,心筋梗塞または心不全のリスクが 55%増加し(P<0.001),脳卒中または脳症のリスクが 181%増加した(P=0.001).アミノカプロン酸とトラネキサム酸はいずれも,腎,心,脳イベントのリスク増加とは関連していなかった.これら 3 剤のいずれか 1 剤の使用に対する傾向スコアで補正すると,薬剤を使用しない場合と比較して,ほぼ同様の結果となった.すべての薬剤で失血が減少した.
アプロチニンは重篤な標的臓器障害と関連することから,継続的使用は賢明ではないことが示される.一方,より安価なジェネリック薬であるアミノカプロン酸やトラネキサム酸は,安全な代替薬である.