てんかん,運動失調,感音性難聴,腎尿細管疾患と KCNJ10 変異
Epilepsy, Ataxia, Sensorineural Deafness, Tubulopathy, and KCNJ10 Mutations
D. Bockenhauer and Others
2 つの血縁家族の小児 5 例が,乳児期に始まるてんかん(epilepsy),重度の運動失調(ataxia),中等度の感音性難聴(sensorineural deafness),正常血圧で低カリウム性代謝性アルカローシスを伴う塩類喪失性の腎尿細管疾患(tubulopathy)を発症した.われわれは,この常染色体劣性遺伝疾患を各症状の頭文字から EAST 症候群と称し,その遺伝的基礎について検討した.
2 家族のうち,1 家族の患児 4 例を対象に全ゲノム連鎖解析を行った.カリウムチャネル遺伝子内で新たに同定された変異について,異種発現系を用いて評価した.さらに,遺伝子改変マウスにおける蛋白の発現と機能を検討した.
連鎖解析により,染色体 1q23.2 上にロッドスコア 4.98 の有意な遺伝子座が 1 つ同定された.この領域には,脳,内耳,腎で発現するカリウムチャネルをコードする KCNJ10 遺伝子が含まれていた.この候補遺伝子の塩基配列決定により,両家族の患児にホモ接合ミスセンス変異が存在することが明らかになった.アフリカツメガエルの卵母細胞においてこれらの変異体を異種発現させると,カリウム電流に有意かつ特異的な減少がみられた.Kcnj10 欠失マウスは脱水状態となり,腎からの塩類喪失の明確な所見が認められた.
KCNJ10 の変異により,てんかん,運動失調,感音性難聴,腎尿細管疾患を主徴とする特異的疾患が引き起こされる.今回の結果から,KCNJ10 は腎における塩類処理と,そしておそらくは血圧の維持・調節に,重要な役割を果たしていることが示唆される.