卵巣顆粒膜細胞腫における FOXL2 の変異
Mutation of FOXL2 in Granulosa-Cell Tumors of the Ovary
S.P. Shah and Others
顆粒膜細胞腫(GCT)は,悪性の卵巣性索間質性腫瘍(SCST)のうちもっとも一般的なタイプであるが,その病因は明らかにされていない.さらに,その病理組織学的診断は困難な場合があり,手術以外の治癒的治療は存在しない.
全トランスクリプトームの対をなす末端を用いた RNA 塩基配列決定法を行い,指標患者 4 例の 4 個の成人型 GCT を解析した.これらの試料の少なくとも 3 個に,GCT に特異的であると推定される変異を同定した.その変異は,ともに解析した 11 個の上皮性卵巣腫瘍のトランスクリプトーム,米国生物工学情報センターが発表したヒトゲノム,一塩基多型のデータベースには存在しないものであった.相補的 DNA とゲノム DNA の直接塩基配列決定により,これらの変異体を同定した.次いで,直接塩基配列決定,制限酵素断片長多型解析,TaqMan 解析を組み合わせ,別の腫瘍および対応する正常ゲノム DNA の解析を行った.
指標とした 4 個の GCT すべてで,顆粒膜細胞の発生にきわめて重要であるとされる転写因子をコードする遺伝子 FOXL2 に,402C→G(C134W)のミスセンス点突然変異が認められた.この FOXL2 の変異は,別の成人型 GCT 89 個中 86 個(97%),莢膜細胞腫 14 個中 3 個(21%),若年型 GCT 10 個中 1 個(10%)にも認められた.ほかのタイプの SCST 49 個と,GCT に関連のない卵巣腫瘍・乳房腫瘍 329 個には,この変異は認められなかった.
4 例の GCT の全トランスクリプトーム配列決定により,形態学的に確認されたほぼすべての成人型 GCT でみられる FOXL2 の反復性体細胞変異(402C→G)が 1 つ同定された.FOXL2 の変異体は,成人型 GCT の病因である可能性がある.
本論文(10.1056/NEJMoa0902542)は,2009 年 6 月 10 日に NEJM.org で発表された.