November 25, 2010 Vol. 363 No. 22
医療による患者への害の発生率における経時的動向
Temporal Trends in Rates of Patient Harm Resulting from Medical Care
C.P. Landrigan and Others
米国医学研究所(IOM)の報告書『人は誰でも間違える(To Err Is Human)』が発表されてから 10 年のあいだに,患者の安全性を向上させるため広範な取り組みが行われてきた.これらの取り組みが成功しているかは明らかにされていない.
ノースカロライナ州の 10 病院の層別化無作為標本を用いて,後ろ向き研究を実施した.2002 年 1 月~2007 年 12 月の四半期あたり計 100 件の入院を,病院内(内部評価者)および病院外(外部評価者)の評価担当看護師のチームが,医療の質改善研究所(Institute for Healthcare Improvement)の有害事象評価のための全般的トリガーツールを用いて無作為に評価した.初回の評価で同定された疑わしい害(harm)を,2 名の独立した評価担当医師が再評価した.変量効果 Poisson 回帰モデルを用いて,病院レベルでの集積,患者の人口統計学的特性,診療科,高リスク疾患による補正を行い,害の発生率の変化を評価した.
入院 2,341 件において,内部評価者により害 588 件が同定された(入院 100 件あたり害 25.1 件,95%信頼区間 [CI] 23.1~27.2).内部評価者が同定した害の多変量解析において,1,000 患者・日あたりの害の全発生率(減少係数 0.99/年,95% CI 0.94~1.04,P=0.61)と,予防可能な害の発生率に有意な変化は認められなかった.外部評価者が同定した予防可能な害には減少が認められたが,統計学的有意水準には達せず(減少係数 0.92,95% CI 0.85~1.00,P=0.06),害の全発生率に有意な変化は認められなかった(減少係数 0.98,95% CI 0.93~1.04,P=0.47).
ノースカロライナ州の 10 病院を対象とした研究により,害の発生頻度は依然として高く,広範な改善を示すエビデンスはないことが示された.安全のための効果的な介入を日常診療に取り入れ,医療の安全性を経時的に監視するには,さらなる取り組みが必要である.(Rx 財団から研究助成を受けた.)