September 8, 2011 Vol. 365 No. 10
腸球菌の in vivo ダプトマイシン耐性の遺伝学的基盤
Genetic Basis for In Vivo Daptomycin Resistance in Enterococci
C.A. Arias and Others
ダプトマイシン(daptomycin)は,腸球菌の細胞膜に対する殺菌作用をもつリポペプチドであり,バンコマイシン耐性腸球菌感染患者に適応外使用されることが多い.しかし,治療中におけるダプトマイシン耐性の出現により,その有用性が脅かされている.
致死的菌血症の患者 1 例の血液から得た 1 組のバンコマイシン耐性 Enterococcus faecalis 臨床分離株について,全ゲノム配列決定と細胞表層の特性解析を行った.一方の分離株(S613)はダプトマイシン投与前に採取した血液から得たものであり,もう一方(R712)は投与後に採取した血液から得たものであった.最小発育阻止濃度(MIC)は S613 が 1 μg/mL,R712 が 12 μg/mL であった.遺伝子置換を行い,S613 分離株で見つかった対立遺伝子を R712 分離株の対立遺伝子と交換した.
R712 分離株では,3 つの遺伝子にインフレーム欠失が認められた.2 遺伝子は,リン脂質代謝に関与すると推定される酵素 GdpD(グリセロホスホリルジエステルホスホジエステラーゼを示す)と Cls(カルジオリピン合成酵素を示す)をコードしており,1 遺伝子は膜蛋白と推定される LiaF(lipid II のサイクルを阻害する抗菌蛋白を示すが,正確な機能は不明)をコードしていた.LiaF は,抗菌薬に対する細胞表層のストレスセンシング反応性に関与する 3 成分制御系(LiaFSR)のメンバーであると予想される.S613 分離株の liaF 対立遺伝子を R712 分離株の liaF 対立遺伝子で置換すると,ダプトマイシンの MIC が 4 倍になったが,gdpD 対立遺伝子の置換では MIC への影響はみられなかった.S613 分離株の liaF 対立遺伝子と gdpD 対立遺伝子の双方を R712 分離株の liaF 対立遺伝子と gdpD 対立遺伝子で置換すると,S613 分離株に対するダプトマイシンの MIC は 12 μg/mL に上昇した.S613 分離株と比較して,ダプトマイシン耐性株である R712 分離株では細胞表層の構造,および膜透過性と膜電位が変化していた.
LiaF と GdpD ファミリー蛋白をコードする遺伝子の変異は,バンコマイシン耐性腸球菌感染の治療中におけるダプトマイシン耐性の出現に必要かつ十分であった.(米国国立アレルギー感染症研究所,米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.)