オレゴン州の試み ― 臨床評価項目に対するメディケイドの影響
The Oregon Experiment ― Effects of Medicaid on Clinical Outcomes
K. Baicker and Others
低所得の成人に対するメディケイド加入の適用拡大が差し迫っているにもかかわらず,加入の拡大の影響は明らかにされていない.2008 年,オレゴン州では待機リスト上で抽選を行い,メディケイドの適用を拡大した.これによりその影響を評価する機会が得られた.
抽選から約 2 年後に,メディケイド加入に申し込み可能者として無作為に選ばれた成人 6,387 人と,選ばれなかった 5,842 人のデータを入手した.評価項目は,血圧・コレステロール値・糖化ヘモグロビン値,うつ病のスクリーニング,服用している薬剤リスト,自己申告による診断・健康状態・医療の利用状況と,それらのサービスに対する自己負担額などとした.抽選による無作為割付けを用いて,メディケイド加入の影響を算出した.
メディケイド加入によって,高血圧またはコレステロール高値の有病率・診断にも,これらの病態に対する薬剤の使用にも有意な影響は認められなかった.メディケイド加入により,糖尿病の診断率と糖尿病治療薬の使用率が有意に上昇したが,平均糖化ヘモグロビン値にも,この値が 6.5%以上である参加者の割合にも有意な影響は認められなかった.メディケイド加入により,うつ病のスクリーニング陽性率が低下し(-9.15 パーセントポイント,95%信頼区間 -16.70~-1.60,P=0.02),さまざまな予防サービスの利用が増加し,高額な医療費の自己負担がほとんどなくなった.
この無作為化対照研究により,メディケイド加入は,最初の 2 年間の身体的健康の評価項目には有意な改善をもたらさなかったが,医療サービスの利用が増加し,糖尿病が発見・管理される率が上昇し,うつ病率が低下し,経済的負担が減少した.