ユビキチン化障害に起因する運動失調,認知症,低ゴナドトロピン症
Ataxia, Dementia, and Hypogonadotropism Caused by Disordered Ubiquitination
D.H. Margolin and Others
運動失調と性腺機能低下症の合併例がはじめて報告されたのは 1 世紀以上前のことであるが,その遺伝的基盤は依然として解明されていない.
運動失調と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を有する患者 1 例において,全エクソーム解析を行ったあと,同様の疾患を有する患者において,候補遺伝子の標的配列決定を行った.神経学的表現型と生殖内分泌学的表現型の特徴を詳細に解析した.ゼブラフィッシュモデルを用いて,シークエンス変異の影響と,上位の相互作用について検討した.
1 つの血縁家族で罹患した同胞 3 例において,ユビキチン E3 リガーゼをコードする RNF216 と脱ユビキチン化酵素をコードする OTUD4 の 2 遺伝子に,ホモ接合変異が認められた.さらなるスクリーニングによって,RNF216 の複合ヘテロ接合切断型変異が非血縁患者 1 例で同定され,単一の有害なヘテロ接合変異が別の 4 例で同定された.ゼブラフィッシュ胚において rnf216 または otud4 をノックダウンすると,眼,視蓋,小脳に欠損が生じた.両遺伝子を組み合わせて抑制するとこれらの表現型は増悪し,非変異ヒト RNF216 または OTUD4 メッセンジャー RNA(mRNA)によって表現型はレスキューされたが,変異 mRNA ではレスキューされなかった.患者全例に進行性の運動失調と認知症が認められた.小脳経路と海馬に神経細胞脱落が認められ,生き残った海馬神経細胞には,ユビキチン免疫反応性の核内封入体が含まれていた.生殖内分泌系の視床下部・下垂体レベルで欠損が検出された.
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症,運動失調,認知症を呈する症候群は,RNF216 の不活性化変異か,RNF216 変異と OTUD4 変異の組み合わせによって引き起こされる可能性がある.これらの結果は,ユビキチン化の障害と神経変性,生殖機能障害とが関連することを示し,また,全エクソーム解析と機能解析を組み合わせれば,疾患を引き起こす遺伝的相互作用の解明が可能であることを明確に示した.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)