熱帯熱マラリア原虫マラリアにおけるアルテミシニン耐性の拡大
Spread of Artemisinin Resistance in Plasmodium falciparum Malaria
E.A. Ashley and Others
東南アジアで, 熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)にアルテミシニン(artemisinin)耐性が出現し,マラリアの制御と根絶に脅威を与えている.封じ込め・根絶戦略の策定には耐性拡大地域のマッピングが不可欠である.
2011 年 5 月~13 年 4 月に,10 ヵ国(アジア 7 ヵ国,アフリカ 3 ヵ国)15 施設で実施した非盲検試験において,合併症のない急性熱帯熱マラリアの成人および小児 1,241 例を登録した.患者に,アーテスネート(artesunate)2 mg/kg 体重/日または 4 mg/kg 体重/日を 3 日間経口投与し,その後標準的な 3 日間のアルテミシニンベースの併用療法を行った.末梢血中の原虫数を 6 時間ごとに測定し,原虫消失半減期を確認した.
原虫消失半減期の中央値は,コンゴ民主共和国では 1.9 時間,タイ・カンボジア国境では 7.0 時間と幅があった.感染消失に時間がかかること(原虫消失半減期>5 時間)は,13 番染色体上の P. falciparum kelch 蛋白遺伝子(kelch13)の「プロペラ」領域における単一の点変異と強く関連しており,ベトナム南部からミャンマー中央部にかけての東南アジア本土で確認された.投与前および投与後のガメトサイト(生殖母体)血症の発生率は,原虫消失に時間がかかった患者のほうが高く,伝播の可能性が高いことが示唆された.アルテミシニンベースの併用療法が奏効していないカンボジア西部では,6 日間の抗マラリア療法で 42 日時点の治癒率が 97.7%(95%信頼区間 90.9~99.4)であった.
現在東南アジア本土で拡大している P. falciparum のアルテミシニン耐性には,kelch13 における変異が関連している.標準的な 3 日間のアルテミシニンベースの併用療法が奏効していない地域では,現在のところ治療期間の延長が有効である.(英国国際開発省ほかから研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01350856)