妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症または低サイロキシン血症の治療
Treatment of Subclinical Hypothyroidism or Hypothyroxinemia in Pregnancy
B.M. Casey and Others
妊娠中の潜在性甲状腺疾患は,子の IQ が正常値を下回るといった有害転帰に関連する可能性がある.妊娠中に潜在性甲状腺機能低下症または低サイロキシン血症が判明した女性にレボチロキシンを投与することで,子の認知機能が改善するかどうかは不明である.
妊娠 20 週未満の単胎妊娠女性を対象に,潜在性甲状腺機能低下症と低サイロキシン血症のスクリーニングを行った.潜在性甲状腺機能低下症は甲状腺刺激ホルモンが 4.00 mU/L 以上であるが遊離サイロキシン(T4)が正常値(0.86~1.90 ng/dL [11~24 pmol/L]),低サイロキシン血症は甲状腺刺激ホルモンが正常値(0.08~3.99 mU/L)であるが遊離 T4 が低値(0.86 ng/dL 未満)と定義した.疾患ごとに試験を実施し,患者をレボチロキシン群とプラセボ群に無作為に割り付けた.甲状腺機能を毎月評価し,甲状腺刺激ホルモンまたは遊離 T4 ( 試験により異なる)を正常値にするためにレボチロキシンの用量を調整した.プラセボは偽調整を行った.子には発達と行動の評価を年 1 回,5 年間行った.主要評価項目は,5 歳時の IQ スコア(5 歳時の検査結果がない場合は 3 歳時)または 3 歳未満での死亡とした.
潜在性甲状腺機能低下症患者 677 例と低サイロキシン血症患者 526 例を,それぞれ平均妊娠週数 16.7 週,17.8 週の時点で無作為化した.潜在性甲状腺機能低下症患者を対象とした試験では,子の IQ スコアの中央値はレボチロキシン群 97(95%信頼区間 [CI] 94~99),プラセボ群 94(95% CI 92~96)であった(P=0.71).低サイロキシン血症患者を対象とした試験では,レボチロキシン群 94(95% CI 91~95),プラセボ群 91(95% CI 89~93)であった(P=0.30).各試験で,IQ スコアが得られなかった子の割合は 4%であった.その他の神経認知転帰・妊娠転帰や有害事象発現率に,いずれの試験でも群間で有意差は認められず,有害事象発現率は両群で低かった.
妊娠 8~20 週で潜在性甲状腺機能低下症または低サイロキシン血症の治療を行っても,行わなかった場合と比較して,子の 5 歳までの認知転帰は有意には改善しなかった.(ユニス・ケネディ・シュライバー米国国立小児保健・人間発達研究所,米国国立神経疾患・脳卒中研究所から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT00388297)