メチル化阻害薬治療後の癌遺伝子の脱メチル化と上方制御
Demethylation and Up-Regulation of an Oncogene after Hypomethylating Therapy
Y.-C. Liu and Others
メチル化阻害薬は,現在癌患者の治療に用いられているが,癌遺伝子の再活性化や上方制御も可能であるかどうかは十分に解明されていない.
骨髄異形成症候群やその他の癌で重要な役割を果たしている既知の癌遺伝子,SALL4 に対するメチル化阻害薬の影響を検討した.骨髄異形成症候群患者の 2 つのコホートでメチル化阻害薬治療の前後に採取したペア骨髄検体を用いて,SALL4 の発現の変化,治療への反応,臨床転帰のあいだの関連を検討した.SALL4 の発現が低いか検出限界以下の白血病細胞株を用いて,SALL4 のメチル化と発現との関連を検討した.SALL4 の発現にきわめて重要な CpG アイランドを同定するため,遺伝子座特異的な脱メチル化技術である CRISPR–DNMT1-interacting RNA(CRISPR-DiR)を用いた.
メチル化阻害薬による治療後,SALL4 の上方制御がコホート 1 の 25 例中 10 例(40%)と,コホート 2 の 43 例中 13 例(30%)で観察され,不良な転帰と関連していた.CRISPR-DiR を用いて,5′非翻訳領域内の CpG アイランドの脱メチル化が,SALL4 の発現にきわめて重要であることを見出した.細胞株と患者で,メチル化阻害薬による治療が,同じ CpG 領域の脱メチル化と SALL4 発現の上方制御を引き起こしたことを確認した.
患者検体の分析と CRISPR-DiR 技術を組み合わせることにより,メチル化阻害薬による治療後には,癌遺伝子の脱メチル化と上方制御が実際に起こる可能性があり,さらに研究する必要があることを見出した.(イタリア癌研究協会ほかから研究助成を受けた.)