March 16, 2023 Vol. 388 No. 11
2 つの APOL1 バリアントを有する人の蛋白尿性腎臓病に対するイナキサプリン
Inaxaplin for Proteinuric Kidney Disease in Persons with Two APOL1 Variants
O. Egbuna and Others
アポリポ蛋白 L1 をコードする遺伝子(APOL1)の毒性機能獲得型バリアント(多様体)を有する人は,急速進行性の蛋白尿性腎症を発症するリスクが高い.遺伝的原因がわかっているにもかかわらず,2 つの APOL1 バリアント(G1 または G2)を有する人の蛋白尿性腎臓病を標的とした治療法はない.
テトラサイクリン誘導性 APOL1 ヒト胎児由来腎臓(HEK293)細胞を用いて,小分子化合物イナキサプリン(inaxaplin)の APOL1 チャネル機能阻害能を評価した.APOL1 G2 相同遺伝子を組み換えた蛋白尿性腎臓病のモデルマウスを用いて,蛋白尿に対するイナキサプリンの投与を評価した.次に単群非盲検第 2a 相臨床試験を行い,2 つの APOL1 バリアントを有し,生検で確認された巣状分節性糸球体硬化症と,蛋白尿(尿蛋白/クレアチニン比 [g/gCr] 0.7 以上 10 未満,かつ推算糸球体濾過量 27 mL/分/1.73 m2 体表面積以上)を有する参加者にイナキサプリンを投与した.イナキサプリンの投与は 1 日 1 回,13 週間とし(15 mg を 2 週間,45 mg を 11 週間),標準治療とともに行った.主要転帰は,イナキサプリンの服薬アドヒアランス率が 80%以上の参加者における,13 週の時点での尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化量(%)とした.安全性も評価した.
前臨床試験では,イナキサプリンは in vitro で APOL1 チャネル機能を選択的に阻害し,モデルマウスの蛋白尿を減少させた.第 2a 相試験には 16 例の参加者が組み入れられた.イナキサプリンの投与を受け,アドヒアランス率の閾値を満たした 13 例において,13 週の時点での尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化量(%)の平均は -47.6%(95%信頼区間 -60.0~-31.3)であった.イナキサプリンの服薬アドヒアランス率を問わず,全参加者を対象とした解析では,1 例を除く全例で主要解析と同程度の低下が認められた.有害事象は軽度~中等度であり,試験の中止にいたった有害事象はなかった.
2 つの APOL1 バリアントを有する巣状分節性糸球体硬化症の参加者にイナキサプリンを投与し,APOL1 チャネル機能を標的阻害することで,蛋白尿が減少した.(バーテックス ファーマシューティカルズ社から研究助成を受けた.VX19-147-101 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT04340362)