成人の胸腺摘出術が健康に及ぼす影響
Health Consequences of Thymus Removal in Adults
K.A. Kooshesh and Others
ヒト成人における胸腺の機能は明らかにされておらず,胸腺の摘出はさまざまな外科手技でルーチンに行われている.成人の胸腺は,免疫機能と全般的な健康状態を維持するために必要であるという仮説を立てた.
胸腺摘出術を受けた成人患者の死亡,癌,自己免疫疾患のリスクを,類似の心臓胸部手術を受けた,胸腺摘出術歴のない人口統計学的にマッチさせた対照と比較評価した.患者のサブグループで,T 細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度も比較した.
除外後,胸腺摘出術を受けた 1,420 例と対照 6,021 例が研究に組み入れられ,このうち,胸腺摘出術を受けた患者の 1,146 例が対照とマッチし,主要コホートに組み入れられた.術後 5 年の時点で,全死因死亡率は胸腺摘出術群のほうが対照群よりも高く(8.1% 対 2.8%,相対リスク 2.9,95%信頼区間 [CI] 1.7~4.8),癌のリスクも同様であった(7.4% 対 3.7%,相対リスク 2.0,95% CI 1.3~3.2).自己免疫疾患のリスクには,主要コホート全体では群間で大きな差はなかったが(相対リスク 1.1,95% CI 0.8~1.4),術前に感染症,癌,自己免疫疾患を有していた患者を解析から除外すると,差が認められた(12.3% 対 7.9%,相対リスク 1.5,95% CI 1.02~2.2).追跡期間が 5 年を超える全例(マッチした対照の有無を問わず)を対象とした解析では,全死因死亡率は胸腺摘出術群のほうが米国の一般集団よりも高く(9.0% 対 5.2%),癌死亡率も同様であった(2.3% 対 1.5%).T 細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度が測定された患者サブグループ(胸腺摘出術群 22 例と対照群 19 例,術後の追跡期間は平均 14.2 年)では,胸腺摘出術を受けた患者は,対照よりも CD4 陽性リンパ球と CD8 陽性リンパ球の新生量が少なく(CD4 陽性 T 細胞受容体再構成時に切り出されるシグナル結合環状 DNA [sjTREC] 数の平均:1,451/μg DNA 対 526/μg DNA [P=0.009],CD8 陽性 sjTREC 数の平均:1,466/μg DNA 対 447/μg DNA [P<0.001]),血中炎症性サイトカイン濃度が高かった.
この研究では,胸腺摘出術を受けた患者のほうが,対照よりも全死因死亡率と癌のリスクが高かった.術前に感染症,癌,自己免疫疾患を有していた患者を解析から除外すると,胸腺摘出術は,自己免疫疾患のリスク上昇とも関連すると思われた.(ハーバード幹細胞研究所のトレーシー&クレイグ・A・ハフ研究支援基金ほかから研究助成を受けた.)