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臨床に直結 NEJM活用術

The New England Journal of Medicine(NEJM)には、最新の知見が発表される原著論文のみならず、日々の臨床に直結し、
教材として活用できる記事が多く掲載されます。NEJMの新しい読み方、活用の仕方をご紹介します。

第2回

症状から
さらに原因を掘り下げる

「Clinical Problem-Solving」で取り上げられた症例を使って、
総合診療医の志水太郎先生に実際に机上演習を行っていただきました。

解説者紹介
志水太郎 先生
獨協医科大学病院 総合診療科
総合診療教育センター 診療部長・
センター長

Clinical Problem-Solving (CPS) とは
診療過程が段階的に提示され、臨床医の推論を挟みながら意思決定プロセスを検討する記事。

オリジナル記事はこちら

The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE

An Element of Unsteadiness

Danielle L. Saly, M.D., Ursula C. Brewster, M.D., Gordon K. Sze, M.D.,
Elan D. Louis, M.D., and Anushree C. Shirali, M.D.
N Engl J Med 2017; 377:1379-85

症例提示部の和訳

61歳の女性。3日間にわたり増悪する不安定歩行と立位困難を訴え来院した。前の年から手足の無感覚とチクチクする痛みを感じている。頭痛や意識障害、視覚の変化、背部痛、筋力低下、外傷、発熱、その他の最近かかった疾患や転倒したことはない。また尿失禁や便失禁もない。

Dr.志水はこう読む!

見えている症状から
根本原因を掘り下げてみよう!

「しびれ」から考える

61歳の女性が3日前からの増悪傾向の不安定歩行と立位困難で来院した。1年前から両手足の感覚低下とチクチクする感じがあった以外は、これといった症状がなかったとのことだった。
しびれの訴えの分布は四肢対称性の末端優位であり、経過は1年間程度ということも考えると一般的に多発ニューロパチー、または頚椎症をとくに考える。不安定歩行の増悪と立位困難という症状からは運動にも影響が出ていることが示唆される。

多発ニューロパチーの鑑別はクリアカットには分けにくいが、神経障害のパターンは参考になる。一つの軸として軸索損傷型(小径線維)と脱髄型(大径線維)に分けて考える。多くは軸索損傷型であり、糖尿病性、腫瘍性、血管炎、甲状腺、アミロイド、ビタミン欠乏症、HIV、ライム病、中毒性、ポルフィリアなどが代表的である。急性の軸索損傷、たとえば中毒やポルフィリアでは強い痛みのようなしびれが出現し、2-3週間の増悪とともにしばらく続き、数か月で良くなっていくケースが典型的である。今回の症例ではそのような経過を取っていない。

一方、糖尿病や尿毒症などの代表的な慢性軸索損傷では障害の順が軸索長に影響されるため、脚→手の順に障害される。いわゆる手袋靴下型の分布のピリピリまたは灼熱感のあるしびれ感が出現し、さらに進行すると前胸部(肋間神経)や頭頂にまでしびれ感が出現する場合もある。症例提示部分では「チクチクする(tingling)」感覚とあり、この訴えからは小径線維の軸索損傷型のパターンを考慮する。

今回の症例では、しびれがどこから始まったかということが重要である。糖尿病性などであれば、四肢遠位筋部位から上行するため、しびれは通常は足から始まる。一方、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、銅欠乏症などの栄養障害、また大後頭孔症候群や上位の頚椎症では手から始まることが多いとされる。今回の症例の記述では、足からというよりは、手足にほぼ同時に発現したと推測されるため、糖尿病性は否定的に考え、その他の栄養障害などを優先的に考える。

Vertical Tracing (V-Tr) で考える

ここで、Vertical Tracing(V-Tr)を展開してみる(下図参照)。ビタミンB12欠乏なら菜食などの偏食や薬剤性、葉酸欠乏なら栄養障害や吸収不良などが考えられる。銅欠乏はビタミンB12欠乏症とほとんど臨床症状が同じで、単独で起こることも亜鉛過剰によって起こることもあるが、そのV-Trとしては胃切除、吸収不良症候群、また何らかの理由による亜鉛過剰が考えられる。このように、一つ原因を思いついたらさらにその原因まで掘り下げて、該当する病歴を明らかにするように努めると、根本の原因の情報から一足飛びに診断に結びつくこともある。これが診断戦略上のV-Trを利用した病歴の考え方である。

脱髄型は軸索損傷型よりもずっと少なく、単クローン性(IgM)グロブリン血症、POEMS症候群、慢性肝障害や一部の中毒性(n-ヘキサンなど)が代表的である。脱髄型ではギランバレー症候群やCIDPに代表されるように異常感覚とともに運動も障害され、遠位の筋力低下を主とする全般性の筋力低下がある。異常感覚は振動覚や位置覚などの深部感覚が温痛覚など表在覚に比してとくに低下し、また反射も低下する。位置覚の低下に伴う歩行障害や巧緻障害も出現する。

症状の経過から鑑別を絞り込む

今回は症状が出てから1年間という期間も重要である。これだけの慢性経過で起こりうることとすれば、栄養障害、腫瘍性、機械的神経路圧迫または遮断、特殊な感染症、自己免疫、また反復性病態の緩解増悪の可能性もある。

ここに、3日前からの急性の失調が伴った。失調には小脳系の失調と、後索障害による失調の二つがあるが、本症例は感覚異常が先行するパターンであり、オッカムのルールからは後者を考え、後索障害の鑑別を考える。いずれも軸索障害を主とする病因である。具体的には、ビタミンB12または葉酸欠乏、銅欠乏を中心に考え、生活歴や服薬歴(サプリメントなども含む)を中心に患者に確認すべきである。それでも当てはまらない場合は、多発性硬化症(緩徐進行型)、神経梅毒、HIV、血管奇形、または機械的圧迫として硬膜外または髄外腫瘍、頚髄症、軸椎脱臼をあげる。一方、仮にこれが小脳の運動失調である場合は小脳と末梢型の感覚異常の2つの軸で考えることになるが、そのときの直観的診断は傍腫瘍症候群である。

NEJM活用のポイント

今回のCPS原文ではこの後、各種検査結果など様々な情報が提示されます。臨床医による診断推論が展開され、診断確定にいたるまでの思考プロセスを学ぶことができます。
一方、症例の提示部で記載されているわずかな情報から、実際の現場を想定しながら根本原因を考えていく思考訓練は、迅速に精度の高い鑑別を挙げていく力を高めるためには非常に有効です。一つの症状からさらにその原因を掘り下げていくという思考方法によって、診断力が向上し、患者ケアにも大きく寄与するはずです!

Clinical Problem-Solvingの原文を読むにはNEJMの年間購読をおすすめします!

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