December 18, 2003 Vol. 349 No. 25
航空機内での重症急性呼吸器症候群の伝播
Transmission of the Severe Acute Respiratory Syndrome on Aircraft
S.J. Olsen and Others
重症急性呼吸器症候群(SARS)は,主として,SARS 関連コロナウイルス(SARS-CoV)感染者が航空機で遠隔地へ移動することによって,世界中へ急速に広まった.多くの感染者が旅客機で移動したが,機内での伝播がある場合のリスクは不明である.
SARS 患者を乗せた 3 便のうち 1 便に搭乗してから 10 日以上経過した乗客と乗務員へ問診を試みた.すべての発端患者は,世界保健機構の SARS 疑い例の判定基準を満たしており,発端患者あるいは二次症例は,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応または血清学的検査によって SARS-CoV 陽性を確認した.
症状を発現していた人とその他の 119 人を乗せた 1 便でその後,検査で確認された SARS が 16 人に発生し,他の 2 人が SARS の疑い例と診断され,4 人は SARS に罹患したと報告されたが問診することができなかった.この 22 人の罹患例において,搭乗から症状発現までの平均期間は 4 日間であり(範囲 2~8 日間),搭乗前後の SARS 患者への曝露は認められなかった.乗客における罹患は,発端患者への物理的な接近と関連しており,発端患者の前 3 列に座っていた 23 人のうち 8 人に疾患が報告された.それに対し,その他の席に座っていた 88 人では疾患が報告されたのは 10 人であった(相対リスク 3.1;95%信頼区間 1.4~6.9).一方,症状を発現していた 4 人を乗せた他の便は,せいぜい 1 人に伝播するにとどまり,症状出現前の SARS 患者を乗せた便の乗客には疾患は確認されなかった.
SARS の伝播は,感染者が症状を発現している時期に航空機に搭乗した場合,機内で起る可能性がある.伝播のリスクを減らすための対策が必要である.