再生不良性貧血におけるテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子 TERT の変異
Mutations in TERT, the Gene for Telomerase Reverse Transcriptase, in Aplastic Anemia
H. Yamaguchi and Others
テロメラーゼの TERC 遺伝子の変異は,先天性再生不良性貧血や一部の後天性の骨髄不全症において,テロメアの短縮化を生じさせる.われわれは,テロメラーゼを構成する他の遺伝子群の変異が再生不良性貧血で生じているかを検討した.
特発性再生不良性貧血の患者 124 例および対照被験者 282 例の末梢血または骨髄細胞において,TERT,DKC1,NHP2 および NOP10 遺伝子変異についてスクリーニングを行った.さらに別の患者 81 例と対照被験者 246 例において TERT 遺伝子の変異について調べた.遺伝子変異がある患者において,テロメア長および末梢血白血球のテロメラーゼ活性を評価した.そして同定された変異をテロメラーゼ欠損細胞株に導入し,テロメラーゼ機能に対する作用および作用機序を検討した.
非血縁患者 7 例において,テロメラーゼ逆転写酵素 TERT 遺伝子に 5 つのヘテロ接合型変異(相当する蛋白にアミノ酸の変化が生じる)が同定された.これらの患者の白血球ではテロメアの短縮化がみられ,テロメラーゼ活性が低下していた.このうち 3 例は口腔粘膜細胞中にも同様の変異が検出された.この変異をもつ家族にもテロメアの短縮化がみられ,テロメラーゼ活性が低下していたが,明らかな造血異常はみられなかった.テロメラーゼ欠損細胞株において,野生型の TERT 遺伝子と再生不良性貧血にて認められた変異型 TERT 遺伝子を共発現させて機能解析を行った結果,TERT 遺伝子のハプロ不全性がテロメア短縮化のメカニズムであることが示唆された.
TERT 遺伝子におけるヘテロ接合型変異は,ハプロ不全性によりテロメラーゼ活性を障害し,骨髄不全症の危険因子となっている可能性が高いと考えられる.