アスピリンと COX-2 発現の有無による大腸癌のリスク
Aspirin and the Risk of Colorectal Cancer in Relation to the Expression of COX-2
A.T. Chan, S. Ogino, and C.S. Fuchs
アスピリンの常用により大腸新生物のリスクは低下するが,アスピリンが結腸癌の発生に及ぼす作用について,その機序は明らかにされていない.
2 つの大規模コホートの参加者から採取した大腸癌のパラフィン包埋標本切片の免疫組織化学検査により,シクロオキシゲナーゼ 2(COX-2)の発現を評価した.コホートの参加者は,2 年ごとの質問票によりアスピリンの使用に関するデータを提供していた.腫瘍内の COX-2 発現に関連した大腸癌の相対リスクに対するアスピリンの使用効果を比較するために,Cox 回帰を用いて競合リスク解析を行った.
女性 82,911 例と男性 47,363 例に関する 2,446,431 人年の追跡調査期間中に発生した大腸癌のうち,636 例において COX-2 発現の判定が可能であった.これらの腫瘍のうち 423 例(67%)に,中等度あるいは強度の COX-2 発現がみられた.アスピリン使用の大腸癌抑制効果は,COX-2 発現の有無によって有意に異なっていた(不均一性に関する P=0.02).アスピリンの常用により,COX-2 を過剰発現する大腸癌のリスクは有意に低下したが(多変量相対リスク 0.64,95%信頼区間 [CI] 0.52~0.78),COX-2 発現の弱いあるいは認められない腫瘍への影響はなかった(多変量相対リスク 0.96,95% CI 0.73~1.26).COX-2 を過剰発現する癌の年齢調整罹患率は,アスピリン常用者で 10 万人年当り 37 であったのに対し,アスピリンを常用していない被験者では 56 であった.一方,COX-2 発現の弱いあるいは認められない癌の年齢調整罹患率は,アスピリン常用者では 10 万人年当り 27 であったのに対し,非常用者では 28 であった.
アスピリンの常用により,COX-2 を過剰発現する大腸癌のリスクは低下するが,COX-2 発現の弱いまたは認められない大腸癌のリスクは低下しないと考えられる.