November 6, 2008 Vol. 359 No. 19
固定組織における遺伝子発現と肝細胞癌の予後
Gene Expression in Fixed Tissues and Outcome in Hepatocellular Carcinoma
Y. Hoshida and Others
肝細胞癌に対し,治癒的な切除を受けてなお,再発リスクのきわめて高い患者を同定することは簡単ではない.このような高リスク患者には,新規の再発を防ぐ治療を適応できる可能性がある.肝細胞癌患者の予後をゲノム情報をもとに予測する方法の開発を妨げている要因の一つは,固定組織では,凍結組織と異なりゲノムワイドな遺伝子発現プロファイリングを行う方法がないことである.
研究の目的は,ホルマリン固定パラフィン包埋組織中の 6,000 以上のヒト遺伝子の遺伝子発現プロファイリングが可能か明らかにすることである.4 施設より集められた肝細胞癌患者 307 例の組織に対し,この方法を用いて,生存と関連する遺伝子発現プロファイルの発見と検証を試みた.
ホルマリン固定パラフィン包埋組織に対する発現プロファイリング法を適用した結果,90%のサンプルから精度の高いデータが得られ,その中には保管期間が 24 年を超えるものも含まれていた.腫瘍組織の遺伝子発現プロファイルでは,生存との有意な関連は見出せなかった.しかし,腫瘍周辺の非腫瘍肝組織では,遺伝子発現プロファイル発見のための日本人患者 82 例の組織サンプルにおいて生存と強い相関が認められた.また,米国と欧州の独立したグループの患者 225 例の組織において,この相関が確認された(P=0.04).
ホルマリン固定パラフィン包埋組織に対するゲノムワイドな発現プロファイリングが可能であることが実証されるとともに,生存と相関する遺伝子発現プロファイルが,肝細胞癌患者の腫瘍に隣接する肝組織に存在することが再現性をもって示された.
本論文(10.1056/NEJMoa0804525)は,2008 年 10 月 15 日に www.nejm.org で発表された.