January 21, 2010 Vol. 362 No. 3
ゴルジン GMAP-210 を欠損したマウスおよびヒトにおける致死性骨異形成
Lethal Skeletal Dysplasia in Mice and Humans Lacking the Golgin GMAP-210
P. Smits and Others
骨異形成などの表現型の遺伝的基盤をモデル生物において確立することにより,その生物学的過程やヒトの疾患における役割に関する洞察を得られる可能性がある.
変異を誘発したマウスをスクリーニングし,常染色体劣性遺伝する新生仔の致死性骨異形成を観察した.遺伝子マッピングとポジショナルクローニングを行い,原因変異を同定した.
致死性骨異形成マウスでは,甲状腺ホルモン受容体相互作用因子 11 遺伝子(Trip11)にナンセンス変異が認められた.Trip11 はゴルジ体微小管関連蛋白 210(GMAP-210)をコードする遺伝子で,致死性骨異形成マウスではこの蛋白が欠損していた.ゴルジ体構造は,軟骨組織をはじめ,複数の組織で乱れていた.骨形成は著しく障害され,軟骨細胞では小胞体の腫脹や圧迫,細胞分化異常,細胞死の増加が認められた.GMAP-210 を欠損した線維芽細胞と軟骨細胞では,ゴルジ体を介するグリコシル化イベントに変化が認められた.また,GMAP-210 欠損軟骨細胞では,細胞外マトリックス蛋白パールカンが細胞内に蓄積していたが,ほかの 2 種の細胞外マトリックス蛋白である II 型コラーゲンとアグリカンの蓄積は認められなかった.これらのマウスでの骨および細胞の表現型と,ヒトの新生児致死性骨異形成の 1 つである,軟骨無発生症 1A 型の患者における骨および細胞の表現型が類似していることから,軟骨無発生症 1A 型が GMAP-210 の欠損により引き起こされる可能性が示唆された.軟骨無発生症 1A 型を有する血縁関係のない患者 10 例における配列解析で,機能欠損変異が認められた.
GMAP-210 は,効率的なグリコシル化やさまざまな蛋白の細胞内輸送に必要である.GMAP-210 に影響を及ぼす変異が致死性骨異形成の原因としてマウスで同定され,その後ヒトでも同定されたことから,モデル生物において異常表現型のスクリーニングを行い,原因変異を同定することの重要性が示された.