October 14, 2010 Vol. 363 No. 16
子宮内膜症に関連した卵巣癌における ARID1A の変異
ARID1A Mutations in Endometriosis-Associated Ovarian Carcinomas
K.C. Wiegand and Others
卵巣明細胞癌と卵巣類内膜癌は子宮内膜症に由来する可能性があるが,この形質転換に関与する分子的事象は報告されていない.
卵巣明細胞癌 18 個と卵巣明細胞癌細胞株 1 株について全トランスクリプトームの配列決定を行い,これらのサンプルのうち 6 つで ARID1A(AT-rich interactive domain 1A [SWI-like] 遺伝子)の体細胞変異を確認した.ARID1A は SWI–SNF クロマチンリモデリング複合体の重要な構成因子である BAF250a をコードしている.そこで,別の 210 個の卵巣癌ともう 1 つの卵巣明細胞癌細胞株について ARID1A の配列決定を行い,別の 455 個の卵巣癌について免疫組織化学的解析による BAF250a 発現の測定を行った.
ARID1A の変異は卵巣明細胞癌 119 個のうち 55 個(46%),卵巣類内膜癌 33 個のうち 10 個(30%)で認められ,高悪性度の漿液性卵巣癌 76 個では認められなかった.17 個の癌ではそれぞれ 2 つの体細胞変異が認められた.BAF250a 蛋白の消失は,卵巣明細胞癌と卵巣類内膜癌の両亜型と,ARID1A の変異の存在と強く相関していた.2 例では,ARID1A の変異と BAF250a 発現の消失が腫瘍と近接の異型子宮内膜症に明確に認められたが,子宮内膜症の遠位部病変には認められなかった.
これらのデータから,卵巣明細胞癌と卵巣類内膜癌では癌抑制遺伝子である ARID1A が高頻度に破壊されていることが示唆される.前癌病変では ARID1A の変異と BAF250a の消失がみられる可能性があることから,これは子宮内膜症が癌化する際の初期の事象であると考えられる.(ブリティッシュコロンビアがん基金,バンクーバー総合病院–ブリティッシュコロンビア大学病院基金から研究助成を受けた.)