ホルモン感受性リパーゼ遺伝子のヌル変異と 2 型糖尿病のリスク
Null Mutation in Hormone-Sensitive Lipase Gene and Risk of Type 2 Diabetes
J.S. Albert and Others
脂肪分解によって,細胞内トリグリセライドが加水分解され,細胞プロセスでエネルギー基質や脂質メディエーターとして利用される脂肪酸が放出されることにより,エネルギーホメオスタシスは制御されている.したがって,脂肪分解を介してエネルギーホメオスタシスを制御する蛋白をコードする遺伝子は,代謝疾患に対する感受性の決定に重要な役割を果たしている可能性がある.
絶食時の血清トリグリセライド値が両極端の分布を示すオールド・オーダー・アーミッシュ(Old Order Amish)の参加者の,脂肪分解経路の遺伝子 12 個の塩基配列を決定し,脂肪分解に重要な酵素であるホルモン感受性リパーゼ(HSL)をコードする LIPE のエクソン 9 において,19 bp の新たなフレームシフト欠失を同定した.アーミッシュの参加者 2,738 例の DNA でこの欠失の遺伝型を決定し,この欠失が代謝形質に及ぼす影響を明らかにするため,関連解析を行った.さらに,脂肪の組織学的特徴,脂肪分解,酵素活性,サイトカイン放出,メッセンジャー RNA(mRNA)量・蛋白量を評価するため,欠失がホモ接合(DD 型)の 2 例,ヘテロ接合(ID 型)の 10 例,欠失を保有していない(II 型)7 例から,腹部皮下脂肪組織の生検標本を採取した.
この変異の保有者は,脂質異常症,脂肪肝,全身インスリン抵抗性,糖尿病を有していた.DD 型の参加者の脂肪組織では,変異によって,HSL 蛋白の欠失,脂肪細胞の矮小化,脂肪分解の低下,インスリン抵抗性,炎症が引き起こされていた.また,DD 型の参加者の脂肪組織では,ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)応答性の転写因子と下流の標的遺伝子がダウンレギュレートされており,これによって,脂肪細胞形成,インスリン感受性,脂質代謝に影響を及ぼす経路の制御が変化した.
これらの所見によって,脂肪細胞の機能と全身性の脂質・糖ホメオスタシスの制御には HSL が生理学的に重要な役割を果たしており,脂肪分解の低下が重篤な代謝疾患をもたらすことが明確に示された.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)