The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE

日本国内版

著者インタビュー01

HTLV-1関連脊髄症に対する
モガムリズマブMogamulizumab (Anti-CCR4) in HTLV-1–Associated Myelopathy

2018年2月8日号のThe New England Journal of Medicine(NEJM)に、難治性の神経疾患であるHTLV-1関連脊髄症に対するモガムリズマブの有効性を評価するための第1/2a相試験の結果が掲載されました。
論文の責任著者である山野嘉久先生に、研究の概要や、論文がNEJMで発表されるまでの経験談などを伺いました。

山野 嘉久 山野 嘉久

山野 嘉久
聖マリアンナ医科大学大学院
先端医療開発 教授

難病治療研究センター
病因・病態解析部門 
部門長

HAMの根本治療への道筋、また先制医療の可能性を示した研究結果

-論文で研究対象とした疾患(HAM)の概要と、研究の背景を教えてください

HTLV-1関連脊髄症(HAM)という疾患は、日本に約100万人いるといわれるヒトT細胞好性ウイルス1型(HTLV-1)感染者の0.3%に発症する神経の難病です。HTLV-1に感染したT細胞が脊髄に浸潤し、慢性的な炎症を引き起こします。それによって、進行性の歩行障害や排尿障害、下肢の感覚障害が生じ、重症例では車いすや寝たきりの生活を強いられる非常に悲惨な病気です。

現時点ではHTLV-1を排除する方法はなく、脊髄の炎症を抑える目的でステロイドやインターフェロンαが主に使われています。残念ながら、患者さんが満足できるような治療成果をあげられていないのが現状です。私たちはHAMの治療においては病因であるHTLV-1感染細胞を減らすことが根本的な治療戦略となると考え、研究に取り組んできました。

-抗CCR4抗体モガムリズマブについて教えてください

モガムリズマブは成人T細胞白血病(ATL)の薬として、2012年に日本で承認されました。その用法用量は1回1.0mg/kgを1週間間隔で8回投与というものです。残念ながらATLの治験ではかなり重篤な副作用が数例みられました。

HAMは慢性の経過を示す疾患であり、重い副作用はあまり許容されません。そこをブレークスルーするために、まず非臨床の試験結果から、用量を少なくしてもHAM患者には有効であるという仮説を立てました。さらに、投与間隔を3ヵ月に1回と長くしても有効性を保つことができるのではと考えました。低濃度・低頻度です。幸い、今回の試験ではその仮説が検証され、安全性を担保しながら有効性を示すことができたのです。

-今回の試験結果は、臨床医にとってどのような意義があると言えるでしょうか?

まずは、HAM患者を診る可能性のある神経内科の先生方にとって、病因であるHTLV-1感染細胞を減らすことのできる薬剤が初めて登場したという点に注目できると思います。血液内科の先生にとっても、この薬剤を従来のレジメンで投与するのではなく、患者さんによってはもう少し間隔をあけた使い方もできるのではないかという示唆になるかもしれません。また、これまでモガムリズマブの血中濃度の推移を長期的に示したデータはありませんでしたが、今回の試験結果でそれを確認できます。この薬を上手に使っていくために、とても有益な情報だと思います。今回の試験では、免疫系に与える影響も検討した内容になっていますので、免疫に造詣の深い臨床医の先生や、基礎系の先生にとっても、興味深いデータとして読めるのではないでしょうか。

もう一点、これは今後の研究課題にもなりますが、ATLの前駆細胞がきれいに減っているという点に注目できると思います。急性型ATLは非常に致死率が高く、発症後、治療してもだいたい1年くらいで亡くなってしまいます。たとえば大腸がんの場合、内視鏡検査で発見されたポリープを、良性の段階で切除すれば大腸がんへの進展を阻止することができます。同様にATLにも発症する前に感染細胞がモノクローナルに増加した状態があって、NEJMに掲載された論文の図でも示してあるように、それを可視化することができます。つまり、今回の論文は先制医療の可能性も示しているのです。もし先制医療が実現すれば、HTLV-1キャリアの方々は安心することができます。世界中で約2,000万人いるといわれているHTLV-1の感染者に大きな朗報を届けるにあたっての第一歩になることが期待されます。

厳格な科学的根拠を求められたNEJMとのやりとり

-論文の投稿からアクセプトされるまでの流れはどのようなものでしたか?

実は最初は、投稿した論文がレビューに回るということすら、まさかという思いでした。なぜなら、対象が稀少疾患であり、第1/2a相の小規模な試験であるからです。NEJMに掲載される論文の多くは大規模試験や、第3相試験などしっかりとしたエビデンスとしてガイドラインに掲載されるような研究が多いですよね。もちろん、内容的にはNEJMに挑戦してよいものと思っていましたが、ちょっと難しいかなという気持ちもあったのです。

投稿した後、外部レビュワー3人と統計家1人の計4人からのコメントがつき、エディターから連絡がきました。それぞれのレビュワーからのコメントは好意的なもので、エディターからの連絡も次のステップに進めるという内容でした。驚いたのは、そこに「外部のレビュワーのコメントはあくまで参考にしてください」と書いてあったことです。自分たちが主体的に論文の内容を評価するから、と。NEJM以外の雑誌ではそのようなことを言われることはあまりないと思います。コメントにはすべて回答をつけて返信しました。次のステップとしては、リジェクトされるか、もう1回別の外部レビュワーでの査読となるか、エディトリアルでの評価となるか、3通りのパターンがあるようでした。論文の著者がウェブで投稿の進捗を確認できる画面(Author Center)を見ると、”External Review”と表示されていたので、その瞬間は「またレビューか」とがっかりしました。結局はレビューには回されなかったようで、エディトリアルチームからコメントが送られてきましたが、その指摘がまた微に入り細に入り…。前回とは別の統計家からのコメントもあり、前の統計家とは違うことを言う。どちらがよいとは書いてくれていないので、科学的に正しいほうをこちらで判断して、回答しました。このようなやりとりが何度も繰り返されましたが、私たちにとってかなり勉強になりました。エディトリアルからのコメントに対してもそれぞれに回答をつけて返信し、その後は細かい修正のみだったと思います。投稿したのが2017年の4月で、アクセプトされたのは確か10月。NEJMのなかでは比較的早いほうなのでしょうか。

アクセプトされた後はなかなか連絡がなく、やきもきしましたが、2018年1月頃から校正チームとのやりとりが始まりました。2月に発表される直前までDeputy Editorは論文の一言一句までチェックしていました。編集長のJeffrey M. Drazen医師もちゃんと目を通すのでしょう、最後には彼からのコメントもきました。

-苦労された点はありましたか?

指摘やコメントがあった箇所についてのNEJMの意図はどれも明確だったので、修正はあまり苦ではありませんでした。ただ、最後の校正作業の段階では、科学的な表現をできるだけ広い読者に伝わりやすくするために少しだけ表現を変えたいというような提案がいくつかあり、それによって文中の意味が変わっていないか?という細かい確認を受けました。たとえば小数点を2桁で表記するより1桁にしたほうがわかりやすい、といったものです。そうすると文中の表も全部変えないといけないのですが、今日中に返事がほしいという注文がつきます。米国での昼くらいの時間に連絡がくると、日本時間ではもう真夜中。そういう時間との戦いはやはり大変でしたね。

また、NEJMは他の雑誌と比べても非常に要求が高く、文章の一つひとつに科学的な根拠を求められました。科学的な根拠に立脚した論文というスタイルは徹底しています。そういう意味で、アクセプトまでのやりとりを通してこちらもeducationを受けた雑誌といえます。自分自身にとっても、科学者として成長するうえでとてもよい経験だったと思っています。

-論文が掲載された後の反響はいかがでしたか?

反響はとても大きかったです。全国の患者さんや、研究者、マスコミから問い合わせがありました。いつ使えるようになるのかなどと世界中からメールがきました。いかに多くの人がこの疾患の治療に困っているのかが実感できました。

世界のトップの思考プロセスや知識を学ぶことのできる雑誌

-普段はNEJMをどのように読まれていますか?

基本的に斜め読みします。なかでもCase Records of the Massachusetts General Hospitalは、学生時代にグループで勉強会を開催していたこともあり、いまでもよく読みます。症例検討の記事ですが、まずは最後の結論部分を読まないでグループで議論をし、鑑別診断を考える勉強をしました。当時はこういうスタイルのものがなかったですし、世界一流の思考プロセスを学べるのが非常によかったです。その時はこの雑誌にまさか自分の論文が載ることになるとはまったく想像もしていませんでしたが(笑)。NEJMを読めば世界のトップが何を、どう考えるのかということを知ることができます。

-NEJMに投稿する論文を執筆しようと考えている医師・研究者にアドバイスをお願いします

試験のプロトコルを作成する段階から研究はスタートしています。最初からすべてを論理的に、科学的に組み立てることが重要で、そこにものすごく労力を割くべきだと思います。とくにclinical studyの場合には、生物統計学の先生にもチームに入っていただいて、論理性に矛盾がないか、おかしいところがないかをチェックしてもらったほうがよいと思います。また、医薬品医療機器総合機構(PMDA)での事前の相談も大変役立ちました。結果はやってみなければわかりません。ですが、ある程度論理がしっかりした試験デザインであれば、結果も伴ってくることが多いのではないでしょうか。

実は、稀少疾患であるHAMはそういう科学に基づくことが難しいのです。メジャーな疾患はすでに治験も多く実施されていて、様々な理論的根拠がある。だから大規模スタディも実現できる。しかし、そのような積み重ねがない場合に科学性をどうやってもたせるか、それは非常にチャレンジングです。幸いにして、私たちは普段の臨床の場から患者さんのデータを蓄積していました。そのデータに基づいて、たとえば10m歩行時間の標準偏差がどの程度で、何%変動したら意味のある変化と判断できるか。そういったデータを普段から収集していたからこそ、今回の論文のなかでもエディターと科学的な意思疎通がはかれました。日々の臨床においても、常に科学的な態度で向き合うことが大切だと思います。

-この疾患や関連領域に携わる臨床医に一言お願いします

いま、HAMの患者レジストリ(HAMねっと)を作っていて、全国の患者さんからの聞き取り調査を続けています。2012年以降、患者さんの病歴などの基本情報や症状の変化を経年的に追跡し、データを蓄積しています。HAMのような希少難治性の疾患は、情報の集積が難しい故に新規治療薬開発が困難になるため、アウトカム指標などに関する情報をしっかりと蓄積していくような地道な積み重ねが大事だと考えています。しかしながら、このような活動はこの疾患を診ている先生方の一人ひとりの善意の協力がないと進みません。ぜひ多くの先生にご支援いただければありがたいと思います。