陽イオン性ウシ血清アルブミンに起因する若年小児膜性腎症
Early-Childhood Membranous Nephropathy Due to Cationic Bovine Serum Albumin
H. Debiec and Others
特発性膜性腎症はネフローゼ症候群で頻度の高い病態の一つであるが,最近,その症例の 70%で M 型ホスホリパーゼ A2 受容体(PLA2R)が抗原候補として同定された.その他の特発性膜性腎症と二次性膜性腎症に関与する抗原の性質はまだ明らかではない.
膜性腎症患者 50 例と対照 172 例から採取した血清検体を用いて,酵素免疫測定法(ELISA)とウエスタンブロット法により,抗ウシ血清アルブミン抗体と,血中ウシ血清アルブミンを探索した.血清検体から免疫精製した血中ウシ血清アルブミンの性質を,2 次元ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて解析した.糸球体沈着物中のウシ血清アルブミンを検出し,溶出した IgG の反応性を解析した.
小児 4 例を含む患者 11 例において,IgG1 と IgG4 のサブクラスの血中抗ウシ血清アルブミン抗体濃度が高かった.これらの患者では血中ウシ血清アルブミン濃度も高かったが,血中免疫複合体濃度の上昇はみられなかった.患児 4 例の血清検体から免疫精製したウシ血清アルブミンは塩基性 pH 領域に移動した一方,成人患者由来のウシ血清アルブミンは天然のウシ血清アルブミンと同様に中性領域に移動した.血中陽イオン性ウシ血清アルブミン濃度とウシ血清アルブミン特異抗体濃度の両方が高かった患児でのみ,ウシ血清アルブミンが上皮下の免疫沈着物中に検出され,PLA2R の非存在下で IgG と共局在していた.これらの沈着物から溶出した IgG は,ウシ血清アルブミンに特異的なものであった.
小児膜性腎症患者の一部では,血中陽イオン性ウシ血清アルブミンと抗ウシ血清アルブミン抗体の両方が認められる.ウシ血清アルブミンが免疫沈着物中に存在することから,陽イオン性ウシ血清アルブミンは,実験モデルで示されているように,陰イオン性の糸球体係蹄壁に結合し,in situ で免疫複合体を形成することによって,病原性を有することが示唆される.