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February 24, 2011 Vol. 364 No. 8

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結核の集団感染の全ゲノム配列決定とソーシャルネットワーク解析による検討
Whole-Genome Sequencing and Social-Network Analysis of a Tuberculosis Outbreak

J.L. Gardy and Others

背景

カナダ・ブリティッシュコロンビア州にある中規模の地域で,3 年間にわたる結核の集団感染がみられた.マイコバクテリア散在反復単位可変数タンデムリピート分析法(MIRU-VNTR)による遺伝子型決定の結果から,感染はクローン性であることが示唆された.従来の接触歴調査では感染源は同定できなかった.より高い精度で集団感染の動態を明らかにすることを目的として,全ゲノム配列決定とソーシャルネットワーク解析を用いて検討した.

方 法

ショートリード塩基配列決定法を用いて,結核菌(Myco-bacterium tuberculosis)の集団感染分離株 32 株と,遺伝子型の一致した過去の分離株 4 株(同一の地域で集団感染の発生前に採取されたもの)について全ゲノムの配列決定を行った.集団感染の感染源と伝播の動態を調査するため,疫学データ・ゲノムデータと,患者への面談により構築したソーシャルネットワークとを照らし合わせた.

結 果

全ゲノムデータから,MIRU-VNTR に基づく遺伝子型が同一で,遺伝学的に異なる 2 つの系統の M. tuberculosis が明らかとなり,2 つの集団感染が同時に起きていたことが示唆された.ソーシャルネットワーク解析と系統発生解析による統合解析から,「スーパースプレッダー」が関与したものを含め,いくつかの感染事象が発生していたことが明らかとなった.両系統は共通の祖先に由来しており,集団感染の発生前にこの地域で検出されていたことから,遺伝学的誘因ではなく社会的誘因によるものであったことが示唆された.さらなる疫学的検討により,集団感染は,この地域でクラックコカイン使用の増加が記録された時期と同時期に発生していたことが明らかとなった.

結 論

大規模な細菌全ゲノム配列決定とソーシャルネットワーク解析の統合解析から,現存する 2 つの系統の M. tuberculosis の同時拡大が,社会環境的要因によって引き起こされたことが示された.2 つの系統の M. tuberculosis は高リスクのソーシャルネットワークの主要構成員が保菌していたものであり,社会環境的要因はクラックコカイン使用の増加であった可能性がもっとも高い.遺伝子型決定と接触歴調査だけでは,集団感染の真の動態を把握することはできなかった.(ゲノムブリティッシュコロンビアほかから研究助成を受けた.)

英文アブストラクト ( N Engl J Med 2011; 364 : 730 - 9. )