抗リン脂質抗体症候群における mTORC 経路の阻害
Inhibition of the mTORC Pathway in the Antiphospholipid Syndrome
G. Canaud and Others
抗リン脂質抗体症候群(APS)は血栓症が主要な特徴と考えられているが,慢性血管病変もまた,とくに生命に関わる合併症をきたした患者においてよくみられる.腎移植を必要とする患者では,血管病変の再発頻度は高い.APS の血管障害に関与する分子経路は不明であり,適切な治療法はない.
原発性または二次性の APS 腎症患者の血管において,二重免疫染色を用いて,哺乳類ラパマイシン標的蛋白複合体(mTORC)経路の活性化と,細胞増殖の性質を評価した.劇症型 APS 患者の剖検標本も評価した.抗リン脂質抗体が mTORC 経路を修飾する分子経路を in vitro で評価し,薬理学的阻害薬の候補の検討も in vitro で行った.さらに,APS の腎移植レシピエントにおけるシロリムス(sirolimus)の効果を検討した.
APS 腎症患者の増殖性の腎内血管の内皮で,mTORC 経路の活性化を示す徴候が認められた.培養血管内皮細胞では,APS 患者の IgG 抗体は,ホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)–AKT 経路を介して mTORC を刺激した.APS 腎症で移植を必要とし,シロリムス投与を受けていた患者では,血管病変の再発はなく,生検で認められる血管増殖が,抗リン脂質抗体を有するがシロリムス投与を受けていなかった患者よりも少なかった.腎移植後 144 ヵ月の時点で,シロリムス投与患者では 10 例中 7 例(70%)で移植腎が機能していたのに対し,非投与患者では 27 例中 3 例(11%)であった.劇症型 APS 患者の剖検標本の血管においても mTORC の活性化が認められた.
今回の結果から,APS に関連する血管病変には mTORC 経路が関与することが示唆された.(フランス国立保健医学研究所 [INSERM] ほかから研究助成を受けた.)