羊水過多,一過性の出生前バーター症候群,および MAGED2 変異
Polyhydramnios, Transient Antenatal Bartter’s Syndrome, and MAGED2 Mutations
K. Laghmani and Others
1 家系における男児の妊娠 3 件で,重度の羊水過多と早産の合併が認められた.胎児の 1 例は死亡し,残り 2 例は,出生前バーター症候群を思わせる一過性の大量の塩類喪失と多尿を呈した.
X 連鎖性疾患の可能性があるこの疾患の分子的原因を明らかにするために,指標となる発端家系の構成員 2 例の DNA を用いて全エクソーム解析を行い,標的遺伝子の解析を,同家系の他の構成員と,罹患した男性胎児のいる別の 6 家系の構成員において行った.また,男児を妊娠し,特発性羊水過多を呈した女性集団も評価した.免疫組織化学的解析,ノックダウン・過剰発現の実験,蛋白質間相互作用の解析を行った.
一過性の出生前バーター症候群を有し,解析対象とした胎児 13 例全例で,MAGED2 に変異が同定された.MAGED2 は悪性黒色腫関連抗原 D2(MAGE-D2)をコードし,X 染色体に位置していた.また,特発性羊水過多の 2 家系で,2 つの異なる MAGED2 変異が同定された.4 例が周産期に死亡し,11 例が生存した.初発症状は,既知の種類の出生前バーター症候群よりも重症であり,羊水過多と陣痛がより早期にみられた.生存児では,すべての症状が追跡期間中に自然消失した.われわれは,MAGE-D2 が,おそらくはアデニル酸シクラーゼ,サイクリック AMP シグナル伝達,細胞質内の熱ショック蛋白を介して,ナトリウム–クロライド共輸送体である NKCC2,NCC(遠位尿細管における塩類再吸収の主要構成要素)の発現と機能に影響を及ぼしていることを明らかにした.
MAGED2 変異が,早産を伴う X 連鎖性羊水過多と,重症であるが一過性の出生前バーター症候群を引き起こすことを示した.MAGE-D2 は,胎児の腎臓での塩類再吸収,羊水の恒常性,妊娠の維持に重要である.(フローニンゲン大学ほかから研究助成を受けた.)