合併症のない重度の貧血を有するアフリカ人小児に対する即時輸血
Immediate Transfusion in African Children with Uncomplicated Severe Anemia
K. Maitland and Others
世界保健機関は,合併症のない重度の貧血(ヘモグロビン値 4~6 g/dL で,臨床的に重症であることを示す所見なし)のため入院したアフリカ人小児に輸血を行わないことを推奨している.しかし,死亡率と再入院率が高いことから,輸血の制限を緩和した戦略により転帰が改善する可能性が示唆される.
非盲検無作為化比較ファクトリアル試験で,合併症のない重度の貧血を有する生後 2 ヵ月~12 歳のウガンダ人とマラウイ人の小児を,即時輸血を行う群と行わない群(対照群)に割り付け,即時輸血群の輸血量は,全血換算で 20 mL/kg 体重または 30 mL/kg とした.対照群では,臨床的に重症であることを示す新たな徴候またはヘモグロビン値の 4 g/dL 未満への低下をトリガーとして,全血換算で 20 mL/kg の輸血を行うこととした.主要評価項目は 28 日死亡率とした.即時輸血の実施・非実施以外の無作為化で,輸血量,退院後の微量栄養素補給,退院後のトリメトプリム・スルファメトキサゾールの予防投与について検討した.
1,565 例(月齢中央値 26 ヵ月)が無作為化され,778 例が即時輸血群,787 例が対照群に割り付けられた.984 例(62.9%)がマラリアに感染していた.児を 180 日間追跡し,71 例(4.5%)が追跡不能となった.初回入院中に,輸血は即時輸血群の全例と対照群の 386 例(49.0%)に行われた(無作為化から輸血までの時間の中央値 1.3 時間 対 24.9 時間).1 例あたりの平均(±SD)総輸血量は,即時輸血群 314±228 mL,対照群 142±224 mL であった.28 日の時点までの死亡は即時輸血群 7 例(0.9%),対照群 13 例(1.7%)であり(ハザード比 0.54,95%信頼区間 [CI] 0.22~1.36,P=0.19),180 日の時点までの死亡はそれぞれ 35 例(4.5%),47 例(6.0%)であり(ハザード比 0.75,95% CI 0.48~1.15),ほかの無作為化因子との交互作用は示されず(P>0.20),また,180 日の時点における再入院,重篤な有害事象,ヘモグロビン値の回復にも群間差は示されなかった.平均入院期間は対照群のほうが 0.9 日長かった.
即時輸血を受けた児と受けなかった児とのあいだで,6 ヵ月間の臨床転帰に差は示されなかった.対照群では,トリガーを設定した輸血戦略であったことから血液使用量は少なかった.しかし入院期間が長く,この戦略は臨床所見とヘモグロビン値のモニタリングを必要とした.(英国医学研究評議会,英国国際開発省から研究助成を受けた.TRACT 試験:Current Controlled Trials 登録番号 ISRCTN84086586)