February 4, 2021 Vol. 384 No. 5
乳癌リスク遺伝子 ― 113,000 例を超える女性の関連解析
Breast Cancer Risk Genes — Association Analysis in More than 113,000 Women
Breast Cancer Association Consortium
乳癌感受性を調べるために遺伝子検査が広く用いられているが,多くの遺伝子は乳癌との関連を示すエビデンスが弱く,基礎リスクの推定値が不正確であり,信頼できるサブタイプ別のリスク推定値が不足している.
感受性があると推定される 34 遺伝子から成るパネルを用いて,乳癌を有する女性 60,466 例と対照 53,461 例から採取した試料で配列決定を行った.これらの遺伝子における蛋白切断型変異とまれなミスセンス変異をそれぞれ解析し,乳癌全体とサブタイプ別のオッズ比を推定した.ミスセンス変異については,ドメイン別,病原性の分類別に関連を評価した.
5 個の遺伝子(ATM,BRCA1,BRCA2,CHEK2,PALB2)の蛋白切断型変異は,乳癌全体のリスクに関連しており,P 値は 0.0001 未満であった. 別の 4 個の遺伝子(BARD1,RAD51C,RAD51D,TP53)の蛋白切断型変異も乳癌全体のリスクに関連しており,P 値は 0.05 未満,ベイズの偽発見率は 0.05 未満であった.残りの 25 個中 19 個の遺伝子の蛋白切断型変異について,乳癌全体のオッズ比の 95%信頼区間の上限は 2.0 未満であった.ATM と CHEK2 の蛋白切断型変異は,エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌のオッズ比が ER 陰性乳癌よりも高く,BARD1,BRCA1,BRCA2,PALB2,RAD51C,RAD51D の蛋白切断型変異は,ER 陰性乳癌のオッズ比が ER 陽性乳癌よりも高かった.ATM,CHEK2,TP53 のまれなミスセンス変異(集合体として)は,乳癌全体のリスクに関連しており,P 値は 0.001 未満であった.BRCA1,BRCA2,TP53 の,標準的な基準では「病原性」に分類されると考えられるミスセンス変異(集合体として)については,乳癌全体のリスクに関連しており,そのリスクは蛋白切断型変異のリスクと同程度であった.
この研究の結果から,乳癌のリスクの予測に用いるパネルに含めることでとくに臨床的に有用となる遺伝子が同定されたほか,遺伝カウンセリングの指針となる蛋白切断型変異に関連するリスクの推定値が得られた.(欧州連合ホライズン 2020 プログラムほかから研究助成を受けた.)