November 11, 2021 Vol. 385 No. 20
診療における希少疾患の診断に関する 100,000 ゲノムパイロット研究 ― 予備的報告
100,000 Genomes Pilot on Rare-Disease Diagnosis in Health Care — Preliminary Report
The 100,000 Genomes Project Pilot Investigators
英国の「100,000 ゲノムプロジェクト」は,通常診療を受け診断のつかなかった希少疾患患者におけるゲノムシーケンシングの役割を調査し,この研究と英国国民保健サービスにおける診療の実施との連携を検討する途中段階にある.本プロジェクトでは希少疾患患者のほかに,癌患者と感染症患者に焦点が当てられている.
2,183 家族の 4,660 例においてパイロット研究を行った.これらの家族には,広範な希少疾患を含む 161 の障害が存在した.ヒト表現型オントロジーの用語を用いて臨床像のデータを収集し,ゲノムシーケンシングを行い,利用した仮想遺伝子パネルと表現型に基づき自動化した変異の順位付けを行い,研究分析により新規の病因変異を同定した.
診断率は家族構成によってばらつきがあり,発端者とその両親(family trio),およびより大きな家系でもっとも高かった.診断率は,単一遺伝子が原因と考えられる疾患で 35%であり,複合的な原因が考えられる疾患(11%)よりはるかに高かった.知的障害,聴覚障害,視覚障害に関する診断率は 40~55%の範囲であった.発端者の 25%で遺伝子診断がついた.そのうち,14%では研究と自動化アプローチの併用で診断がついたが,病因性のノンコーディング変異,構造的変異,ミトコンドリアゲノム変異,エクソームシーケンシングで十分にカバーされていないコーディング変異が発見された症例では,この併用が決定的であった.コホート全体での負担分析を 57,000 ゲノムで行ったところ,新たに 3 つの疾患遺伝子と,19 の新規の関連が発見された.われわれがつけた遺伝子診断のうち,25%は患者またはその親族の臨床意思決定にただちに影響を及ぼした.
国の医療システムにおけるゲノムシーケンシングのパイロット研究により,さまざまな希少疾患の診断率の上昇が示された.(英国国立健康研究所ほかから研究助成を受けた.)