September 4, 2025 Vol. 393 No. 9
ヘパリン起因性血小板減少症の発症機序におけるモノクローナル抗体
Monoclonal Antibodies in the Pathogenesis of Heparin-Induced Thrombocytopenia
J. Treverton and Others
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,血小板第 4 因子(PF4)とヘパリンの複合体を標的とする抗体によって引き起こされる免疫介在性の血小板疾患である.HIT の特徴は,ポリクローナルな免疫応答とされてきたが,他のまれな抗 PF4 疾患の研究では,クローン性の限られた抗体が同定されている.
この研究では,病原性 HIT 抗体のクローン性を調査した.臨床的,血清学的に確認された HIT 患者 9 例から得た血清検体から,PF4–ヘパリンに対する抗体を,PF4–ヘパリンビーズを用いてアフィニティ精製した.抗体のクローン性は,免疫固定電気泳動法と質量分析によって評価した.PF4 に結合する抗体は,酵素免疫測定法で評価し,血小板の機能の活性化は,P セレクチン発現アッセイを用いて評価した.2 例の患者において,PF4 変異体ライブラリーを用いて HIT 抗体のエピトープをマッピングした.
HIT 患者 9 例全例の血清検体は,酵素免疫測定法,ならびに P セレクチン発現アッセイで,PF4–ヘパリンに対する血小板活性化抗体陽性であり,6 検体(67%)では,免疫固定電気泳動法でモノクローナル抗体が検出された.9 例全例の検体からアフィニティ精製で得られた PF4–ヘパリンに対する抗体は,P セレクチン発現アッセイで血小板を活性化し,質量分析では単クローン性が示された.アフィニティ精製後,抗体が減少した血清検体は,酵素免疫測定法で結合活性を失っており,P セレクチン発現アッセイで機能活性を失っていたことから,病原性抗体の除去が確認された.血清検体由来の抗 PF4–ヘパリン抗体が標的とする PF4 上のエピトープは,アフィニティ精製で得られたモノクローナル抗体が標的とするエピトープと同じであった.
HIT 患者 9 例全例において,病原性抗体はモノクローナルであることが判明した.この知見は,HIT の発症機序に洞察を与え,診断および標的治療の向上に影響を及ぼす.(カナダ健康研究所,米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.)