November 28, 2002 Vol. 347 No. 22
男性における水銀と冠動脈心疾患のリスク
Mercury and the Risk of Coronary Heart Disease in Men
K. YOSHIZAWA AND OTHERS
魚類の摂食による水銀の多量摂取が,冠動脈心疾患のリスクを高めるという仮説が提唱されている.
コホート内症例対照研究デザインを用いて,1986 年に,心血管疾患や癌の既往のない 40~75 歳の男性の医療専門職を対象として,足指爪の水銀含有量と冠動脈心疾患リスクとの関連性を調査した.1987 年に同コホートの 33,737 例から足指爪の切れ端を採取し,5 年間の追跡調査期間中に,470 症例の冠動脈心疾患(冠動脈手術,非致死的な心筋梗塞,および致死的な冠動脈心疾患)を確認した.各患者は,年齢と喫煙状態に基づき,無作為に選択した対照者とマッチさせた.
水銀含有量は魚類の摂取量と有意に相関しており(Spearman の順位相関係数 r=0.42,P<0.001),平均水銀含有量は歯科医のほうが歯科医以外よりも高かった(それぞれ(平均 0.91 μg/g および 0.45 μg/g;P<0.001).年齢,喫煙,その他の冠動脈心疾患危険因子で補正すると,水銀含有量は冠動脈心疾患のリスクと有意には相関していなかった.水銀含有量の最高 5 分位群と最低 5 分位群で比較すると,最高量での冠動脈心疾患の相対リスクは 0.97(95%信頼区間 0.63~1.50;傾向性の P 値=0.78)であった.魚類からの n-3 系脂肪酸摂取量で補正しても,これらの結果は評価できるほどには変化しなかった.
われわれの知見は,水銀総曝露量と冠動脈心疾患リスクとの関連性を支持しないが,弱い関連性は否定できない.