新生児 MRSA 集団感染調査のための高速全ゲノム配列決定
Rapid Whole-Genome Sequencing for Investigation of a Neonatal MRSA Outbreak
C.U. Köser and Others
単一系統のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)分離株は,現在のタイピング技術では識別できないことが多い.全ゲノム配列決定によって,より正確に伝播経路が同定され,集団感染の特徴を明らかにできる可能性がある.
新生児集中治療室における MRSA の推定集団感染を検討した.臨床的に意義のある所要時間での高速ハイスループット配列決定法を用いて,この集団感染に関連する分離株 7 株と,同病院の MRSA 保菌者または菌血症に関連する別の MRSA 分離株 7 株の DNA 配列を後ろ向きに決定した.
分離株のゲノムと参照ゲノム(地域流行の MRSA クローン,EMRSA-15 [配列 22 型])の一塩基多型(SNP)を比較し,系統樹を作成した.これにより集団感染分離株の正確なクラスターが明らかになり,集団感染分離株と非集団感染分離株とが区別された.集団感染には含まれていなかった菌血症患者 2 例のあいだで,過去に見落とされていた伝播事象が検出された.抗菌薬耐性遺伝子の人工的な「レジストーム」を作成し,それが表現型感受性試験の結果と一致することを示した.また,毒素遺伝子から成る「トキソーム」も作成した.集団感染からの分離株 1 株に,SNP 数が他の株よりも多い,変異高頻度誘発遺伝子の表現型を認めた.このことから,ある分離株が最近の伝播連鎖に含まれるかどうかを判別するために,分離株ごとに SNP 数の閾値を 1 つに設定することのむずかしさが強調されている.
全ゲノム配列決定によって,患者のケアに影響を与えることのできる一定の時間枠内で,臨床的に意義のあるデータを得ることができる.データ解釈の自動化の必要性と臨床的に意義のある報告の提供が,臨床での実現の障害である.(英国臨床研究共同計画トランスレーショナル感染研究イニシアチブほかから研究助成を受けた.)