August 30, 2012 Vol. 367 No. 9
優性遺伝性アルツハイマー病における臨床変化とバイオマーカーの変化
Clinical and Biomarker Changes in Dominantly Inherited Alzheimer's Disease
R.J. Bateman and Others
アルツハイマー病の病理学的経過の順序と程度は十分には解明されていないが,その一因はこの疾患が長い年月をかけて発症することにある.常染色体優性遺伝性アルツハイマー病は発症年齢が予測可能であり,発症にいたるまでの病理学的変化の順序と程度を明らかにする機会が得られる.
前向き縦断研究において,ベースラインで臨床評価・認知機能評価,脳画像検査,脳脊髄液(CSF)検査・血液検査を受けた被験者 128 例のデータを解析した.被験者のベースライン評価時の年齢と,親のアルツハイマー病発症年齢をもとに,発症予測年齢からの推定年数(被験者の年齢-親の発症年齢)を算出した.ベースラインデータを発症予測年齢からの推定年数と関連付けて横断的に解析し,病理学的変化の相対的な順序と程度を調査した.
CSF 中のアミロイドβ(Aβ)42 濃度は,発症予測年齢の 25 年前から低下しているようであった.Aβ沈着はピッツバーグ化合物 B を用いた陽電子放射断層撮影で測定し,発症予測年齢の 15 年前から検出された.CSF 中のタウ蛋白濃度上昇と脳萎縮の増大は,発症予測年齢の 15 年前から検出された.脳代謝の低下とエピソード記憶の障害は,発症予測年齢の 10 年前から観察された.ミニメンタルステート検査と臨床認知症評価尺度で測定した全般的認知機能障害は発症予測年齢の 5 年前から検出され,患者が認知症の診断基準を満たしたのは発症予測年齢の平均 3 年後であった.
われわれは,常染色体優性遺伝性アルツハイマー病が,進行性の認知機能障害と同時に,CSF 中のアルツハイマー病の生化学的マーカー,脳のアミロイド沈着,脳代謝における,数十年にわたる一連の病態生理学的変化に関連していることを見出した.今回の結果は,長期的なデータによって確認する必要があり,孤発性アルツハイマー病患者には当てはまらない可能性がある.(米国国立老化研究所ほかから研究助成を受けた.DIAN ClinicalTrials.gov 番号:NCT00869817)