呼吸機能が維持されている喫煙者における症状の臨床的意義
Clinical Significance of Symptoms in Smokers with Preserved Pulmonary Function
P.G. Woodruff and Others
現在,慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,気管支拡張薬投与後のスパイロメトリーで努力肺活量(FVC)に対する 1 秒量(FEV1)の比が 0.70 未満の場合に診断される.しかし,この定義を満たさずとも呼吸器症状を訴える喫煙者は多い.
現在・過去喫煙者と喫煙歴のない対照,合わせて 2,736 例を対象とした観察研究において,COPD 評価テスト(CAT;0~40 で,スコアが高いほど重症であることを示す)を行い呼吸機能を評価した.スパイロメトリーで呼吸機能が維持されている(気管支拡張薬投与後の FEV1/FVC が 0.70 以上で,かつ FVC が正常下限値を上回る)現在・過去喫煙者では,有症状の場合(CAT スコアが 10 以上)は無症状の場合(同 10 未満)と比較して呼吸機能が悪化するリスクが高いかどうか,また,有症状例では 6 分間歩行距離,肺機能,胸部高分解能 CT 画像所見が無症状例と異なるかどうかを検討した.
呼吸機能が維持されている現在・過去喫煙者の 50%が有症状であった.有症状の現在・過去喫煙者における呼吸機能悪化率の平均(±SD)は,無症状の現在・過去喫煙者,喫煙歴のない対照と比較して有意に高かった(1 年あたりのイベント数は 0.27±0.67 件に対し 0.08±0.31 件,0.03±0.21 件;いずれの比較についても P<0.001).有症状の現在・過去喫煙者は,喘息の既往を問わず,無症状の現在・過去喫煙者と比較してより活動の制限が大きく,FEV1・FVC・吸気量がやや小さく,高分解能 CT で肺気腫は認めなかったが気道壁肥厚がより大きかった.有症状の現在・過去喫煙者の 42%が気管支拡張薬,23%が吸入ステロイド薬を使用していた.
呼吸機能が維持されている有症状の現在・過去喫煙者は,COPD の現行の基準を満たしていなくとも,呼吸機能の悪化,活動制限,気道疾患の所見が認められる.そのような例は,現時点ではエビデンスなく多様な呼吸器疾患治療薬を使用している.(米国国立心臓・肺・血液研究所,米国国立衛生研究所基金から研究助成を受けた.SPIROMICS 研究:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01969344)