December 1, 2016 Vol. 375 No. 22
BCL11B 変異を伴う重症複合免疫不全症における多臓器奇形
Multisystem Anomalies in Severe Combined Immunodeficiency with Mutant BCL11B
D. Punwani and Others
重症複合免疫不全症(SCID)は T リンパ球産生抑制と B リンパ球機能不全を特徴とし,致死的な感染症を引き起こす.人口ベースの新生児スクリーニングによる SCID の早期診断は,臨床管理を促進し,転帰の改善に役立つ可能性があり,これまでに知られていなかったヒトリンパ球分化に必須の因子の同定も可能になる.
T 細胞受容体再構成時に切り出される環状 DNA(TREC),すなわち胸腺の T 細胞新生能のバイオマーカーのスクリーニングにより,感染症発症前の新生児 1 例で SCID が発見された.患児の状態を確認したうえで,同種造血幹細胞移植で治療した.患児と両親のエクソーム解析を行い,ヒト造血幹細胞とゼブラフィッシュ胚を用いて優先順位の高い候補遺伝子の機能解析を行った.
この患児には,「漏出性」SCID(最小限度の免疫機能が維持されている SCID)と,頭蓋顔面および皮膚の異常,脳梁欠損が認められた.免疫不全は,造血幹細胞移植によって完全に治療された.エクソーム解析により,BCL11B にヘテロ接合性の新規ミスセンス突然変異,p.N441K が認められた.その結果生じる BCL11B 蛋白は優性阻害活性を有しており,野生型 BCL11B の DNA 結合能を無効にし,それにより T 細胞系列の分化が抑制され,造血幹細胞の移動が阻害された.これにより,これまでに知られていなかった BCL11B の機能が明らかになった.この患児の異常を bcl11ba 欠損ゼブラフィッシュで再現したところ,機能が保持されているヒト BCL11B の異所性発現により異常は改善されたが,変異型ヒト BCL11B では改善されなかった.
新生児スクリーニングにより,これまでに知られていなかったヒト SCID の原因の同定と治療が促進された.ヒト造血幹細胞とゼブラフィッシュにおいて,エクソーム解析と候補遺伝子の評価を組み合わせることで,構成的な BCL11B 変異により SCID とともにヒト多臓器奇形が引き起こされること,さらに造血前駆細胞における BCL11B の胸腺前の役割が明らかになった.(米国国立衛生研究所ほかから研究助成を受けた.)